愛しき花
20
「お断りだな」
カナードは即座にそう言い返す。
「俺はサハクの人間だ。ついでに言えば、コーディネイターでもある」
だから、とさらに言葉を重ねた。
「同じコーディネイターのザフトを攻撃する気はない」
サハクの双子もそれを認めないだろう。さらにそう付け加えた。
「だが!」
黒髪の女性士官が反論しようと口を開く。
「第一、俺たちは地球連邦の理念を正しいと思っていない」
それを強要するな、とカナードは続けた。
「お前たちがどうなろうと勝手だが、俺たちを巻き込むな」
きっぱりと言ったところで意味はないんだろうな。そう思いながらもカナードはそう主張しておく。
「確かに。私の婚約者もコーディネイターだし。いざとなったら、あちらに保護してもらえばいいだけだ」
カガリもきっぱりと言い切る。
「では、どうしてそれを?」
技術士官らしい栗毛の女性がカナードに問いかけてきた。その口調から判断をして彼女はあまりコーディネイターに偏見を持っていないのかもしれない。
「それを使えば閉じ込められていたモルゲンレーテの職員を助け出せるからだ」
それ以上の意味はない、とカナードは口にする。
「緊急だったからな。使えるものは何でも使う。そういうことだ」
「OSをいじったのも?」
「あれじゃ歩かせるだけで精一杯だったからに決まっているだろう」
ムウの言葉にカナードはそう言い返す。
「戻せというならすぐに戻すぞ」
前のOSも残してある。そうすればムウでも扱えるだろう。カナードはそう続けた。
「代わりに、俺たちオーブの人間はこの艦から解放してもらおうか」
今すぐ、と彼らをにらむ。
「それはできない」
即座に黒髪の士官が言い返してきた。
「お前たちは地球軍の機密に触れた!」
だからどうしたというのか。そう言いたくなるセリフを彼女は言ってくれる。
「バジルール少尉」
ムウが彼女をたしなめるように名を呼んだ。
「ですが、フラガ大尉!」
こいつらが、と彼女は反論をしようとしてくる。
「彼らは地球連合の人間ではない。しかも、サハクの関係者となれば、うかつに無理強いをすると後々厄介なことになるぞ」
あそこの首長は二人ともコーディネイターのはずだ。彼はそう告げた。
「……確かに。私もそう聞いているわ」
もう一人もそう言ってうなずく。
「だから、私達ができることは強要することではなく頼むことだけよ」
そうでしょう、と彼女はバジルールに告げる。
「だから、あなたは甘いと言うんです、ラミアス大尉」
しかし、バジルールは自説を曲げようとはしない。
「残った機体とこの艦だけは無事に月まで輸送しなければいけないんですよ?」
「だからと言って、オーブの人間に協力を強要するのは法に違反する行為だ」
どうやら、このメンバーの中で問題なのはバジルールらしい。カナードはそう判断をする。
カガリや民間人のことがなければ強引にこの艦から逃げ出してもいいのだが、と心の中で付け加えた。
いや、最悪、カガリだけを連れて行ってもいいだろう。もっとも、それは本人がいやがるだろうと言うこともわかっていた。
いっそ、ラウに拿捕させようか。彼であれば、民間人やカガリの安全は保証してくれるだろう。
それとも、ギナに連絡を取るべきか。
できるだけ早めに判断をしなければいけない。しかし、答えを出すためには、まだ、判断材料が足りない。自分の経験不足がここまで如実に出るとは思わなかった。それが悔しいと思うカナードだった。