愛しき花

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 艦内の案内を終えた後、シンはアスランとともにもう一隻の艦の方へと移動していった。もっとも、すぐに帰ってくるだろうが。
 レイはもう少しラウと話したいと言って、隣に入っていった。
 つまり、ここにいるのはキラ一人だと言うことになる。
「……疲れた」
 それだから、こうして本音を漏らすことができた。
「みんな、僕のためにあれこれしてくれているっていうのはわかるけど……せめて、事前に予告ぐらいしてくれてもいいんじゃないかな」
 そうすれば、こちらに持ってこられたものもあるのに。キラはそう続ける。
「でも、カガリがいるなら、うちにあるものは大丈夫かな?」
 本当に大切なものはアスハに預かってもらっているし、プログラム関係はいつも落ち歩いているからと付け加えた。それでも、手元に置いておきたいあれこれはあったのだ。
 だが、今更言っても仕方がない。キラはそう判断をする。
「そういえば、おじさまが用意してくれたものって……」
 どのようなものなのだろうか。そう考えながらキラは立ち上がる。そして、クローゼットへと近づいていく。
 微妙にバランスを崩してしまうのは、この艦の低重力状態になれていないからだ。オーブのそれとは微妙に異なっているからだろう。
 それでも、すぐになれるに決まっている。
 キラはそんなことを考えながらクローゼットの扉を開けた。
 次の瞬間、思い切り脱力してしまう。
「おじさま……」
 戦艦でこれを着ろというのか。そう言いたくなる。
「……これを着るのは、勇気がいるよ……」
 カガリだったら見なかったことにして扉を閉めかねない。
 いや、それを知っているから自分に着せようとしているのだろうか。
 あり得る、と心の中で呟く。
「後でアスランに確認してみよう」
 これは元々カガリのために用意していたものではないか、と言うことをだ。
「とりあえず、今日はこれでいいよね」
 今着ている服で、と苦笑を浮かべる。問題があるとすれば明日以降だが、それに関しては後でシンとレイに相談すればいいだろう。
 そう呟きながら、キラはクローゼットを閉める。
「暇だから、プログラムの続きでも書いていようかな。ネットワークにつながなければ誰も文句は言わないよね」
 自分の趣味を知っている人間達も、と付け加えたのは、それでさんざん、怒られた経験があるからだ。
 確かに、ザフトの管制システムには興味がある。でも、ハッキングをしない程度の分別はあるつもりだ。
 しかし、周囲の者達はそう考えてくれないらしい。自分がパソコンをいじっているだけで確認をしてくるのだ。
 まぁ、自分の普段の言動が悪いんだろうな、とキラは苦笑を浮かべる。
「ハッキングが一番、自分の力量がわかるんだもん」
 どのレベルまでばれないか。それが一番正確にわかるのだ、と教えてくれた人もいるし、と付け加える。
「ともかく、あのデーターの整理だけでも終わらせておかないと」
 気持ちを切り替えるようにそう呟く。
「教授に渡す機会はないかもしれないけど、みんなとの約束だし……」
 データーに関しては、カガリ経由でゼミの仲間達に送ってもらえばいいのではないか。
 そう考えながら鞄の中からモバイルを取り出す。
 起動するとすぐに保存していたデーターを呼び出す。
「……それにしても、これって、何のデーターだったんだろう」
 モルゲンレーテでパワードスーツの開発をしているとは聞いたことがないのだが、と首をかしげる。
「カガリに聞いておけばよかったかな」
 それとも、とキラはかすかに眉根を寄せた。
「これがカガリやアスラン達がヘリオポリスに来た原因のものだったりする?」
 可能性はないとは言えない。
「シンが来たらラウさんに『相談したいことがある』と伝えてもらおう」
 そして、相談しよう。キラはそう呟く。
「それまでは作業を進めてもいいよね」
 その方が見やすいだろうし。そう付け加えると、キラはキーボードを叩き始めた。

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最遊釈厄伝