愛しき花
15
「アスラン……」
キラの呼びかけに、彼は柔らかな笑みを浮かべた。
「元気そうで何よりだ」
そういえばキラは「アスランも」と言い返してくれる。その言葉にうなずき返しながら、カガリのことを話すべきかどうか、悩んだ。
「カガリの過保護ぶりも相変わらずのようだが」
メールから推測すれば、と笑みを深めつつ口にする。
「……カガリは……」
どうして、そんな風にいらないことまで伝えるのか。キラはそう言って頬を膨らませる。
「心配しているんだろう、あいつなりに」
それに、とアスランは続けた。
「俺もお前の話を聞くのは好きだしな」
この言葉に、キラは困ったように視線を彷徨わせる。
「ともかく、隊長のところに行こう」
話はそれからだ、と続けた。
「……アスラン、任務は?」
奪取してきた機体のことを言っているのか。シンは微妙に言葉を濁しながら問いかけてきた。
「一時中断だ。お前だけだとキラが不安に思うかもしれない、と言われてな」
もっとも、と視線をレイに移す。
「もう一人、お守りが来ていたなら心配いらなかったか?」
そう付け加えれば、キラの頬がいきなり膨らんだ。
「僕の方が年上なのに」
「半年だけな」
キラの言葉に即座に言い返す。これは、三年前までは日常のように繰り返されていた会話だ。だから、流れるような応酬になる。
「でも、キラは昔からどこか抜けていたからな。周りは自然と大人になる」
苦笑とともにそう付け加えた。
「そうだろう?」
視線をシン達へと向けると、アスランは問いかける。
「えっと……」
「……そのあたりは、ノーコメントで」
二人は視線を彷徨わせながらこう口にした。
「ひどい!」
それを肯定と受け止めたのだろう。キラはさらに頬を膨らませた。
「そう言うところが子供っぽいんだよ」
笑うながらアスランは彼女の頬をつつく。
「僕は子供じゃない!」
キラはまたこう言った。
「はいはい。わかったから、迷子になるなよ」
アスランはこう言うと移動を開始する。キラも渋々と言った様子でついてきた。しかし、低重力になれていないのか、移動がぎこちない。そんな彼女に、当然のようにシン達が手を貸している。
その様子に、昔の自分達を思い出して、無意識のうちに笑みが深くなる。
同時に、やはり、今はカガリのことは話さないでおこうと心の中で呟いた。彼女にしても、環境に慣れる前のキラに心配をかけたくないはずだ。
それに、とアスランは続ける。
彼女はアスハの後継者だ。例え地球軍でも危害を加えることはできないだろう。
何より、彼女がおとなしく捕まっているはずがない。そして、彼女たちを可愛がっているサハクが黙っているはずがないのだ。
だから大丈夫。
自分に言い聞かせるようにそう付け加える。
第一、彼女がキラを一人残すようなまねをするはずがない。それだけは断言できる。
不安があるとすれば、ミゲルが言っていたあの新型のパイロットが誰か、かもしれない。
カガリが何も言っていないと言うことは、アスハの関係者ではないと言うことか。だが、サハクなら可能性がある。
どちらにしろ、無事ならばいずれ連絡が来るだろう。それを待つしか、今の自分にはできない。
それまで、キラを守るのが自分の役目ではないか。
アスランはそう結論を出していた。