愛しき花
14
艦内には重力がないのだろう。ちょっと体の向きを変えようとするだけで予想以上の動きになってしまう。
「気を付けて、キラ」
そんな彼女の動きを止めながら、シンがこう言ってくる。
「うん、ごめんね」
キラはすぐにこう言い返す。
「謝られるより、お礼の言葉を口にしてくれた方が、俺としては嬉しいんだけど」
シンはそう言って笑う。
「そう、なの?」
驚いたようにキラは問いかけた。
「そうだよ」
ついでに笑っていてくれるともっと嬉しい、と彼は続ける。
「別に僕が笑っていても変わらないと思うけど」
キラはそう言って首をかしげた。
「俺のやる気が変わる」
まじめな顔をしてシンはこう言いきる。それにどのような反応を返せばいいのか。キラにはわからない。こんな風に言われたことはないのだ。
「確かに。キラさんが笑っていてくれると安心できるしな」
さらにレイもうなずいてみせる。
「二人とも、変」
キラはそう言ってため息をついた。
「普通ですよ」
シンは平然とそう言い返してくる。
「何なら、アスランにも確認してみます?」
たぶん、会えると思うけど。シンはさらにそう付け加えた。
「アスラン?」
「そう。この艦にいるから」
彼もいろいろあったのだ。シンはそう言う。
「きっと、キラの顔を見たら喜ぶと思うぞ」
さらに彼はそう付け加えた。
「……アスランがどうして……」
キラはそう呟く。
「カガリは知っているのかな?」
そのことを、とそう付け加えた。だが、確かに本人に確認するのが一番だろう。
そう考えていれば視界の隅でコンソールの信号が赤から青に変わる。
「と言うことで、とりあえず隊長のところに行こう」
そう言うと同時に、シンはエレベーターのドアを開けた。彼はキラの腕を握ると、そのまま中へと体を滑り込ませる。レイもその後を追いかけてきた。
「とりあえず、しばらくはこの艦で暮らしてもらうことになるのかな? きっと、補給が来たら、そちらでプラントに向かってもらうことになるんだろうけど」
いつになるか、とシンは付け加える。
「別に、それはかまわないけど……」
間違いなく、これは軍艦だ。だから作戦が終わるまでは戻れないのだろう。
ひょっとしたら、自分を保護すると言うこと自体、イレギュラーなことだったのではないか。
「そもそも、僕がここにいていいの?」
「だめなら連れてこないって」
キラの疑問にシンはすぐにこう言い返す。
「隊長の許可がなきゃ、俺だってキラを迎えに行くなんてできないし」
さすがに、その程度のことはわかっている。シンはそう言った。
「第一、隊長が一番、乗り気だったぜ、キラの保護は」
彼の言葉に、キラは首をかしげる。
「ザフトの隊長さんには知り合いがいないと思うんだけど……」
それとも、自分が知らなかっただけなのか。キラはそう付け加えた。
「……ラウですよ、キラさん」
レイがこう言ってくる。
「ラウさん?」
そうなの? とキラは聞き返す。
「そうだよな?」
「あぁ。そういえば、お前の親戚だったっけ?」
「……プラントに行っていたのは知っているけど……隊長さんになっているのは知らなかった」
だが、彼は優秀だから十分あり得る。
「あったら、話を聞けばいいか」
そのくらいの時間はあるだろう。キラの言葉に二人は同意をする。
「さて、ついたぞ」
シンがそう言うと同時にエレベーターが止まる。そして、ドアが開いた。
そこに人影が確認できる。
「アスラン……」
無意識にキラは、相手の名を口にしていた。