愛しき花
12
予想はしていたが、反撃が激しい。
「イザーク達は無事に離脱したのか?」
相手の攻撃を避けながら、アスランはそう呟く。
「それにしても、二機あるとは……」
予定では四機だったはず。それとも、彼らも知らない間に一機増えていたのだろうか。
あるいは、情報にあった試作機がそのまま残されていたのかもしれない。
どうする、とアスランは心の中で呟いた。
「ミゲル達を呼ぶか?」
それとも、と続ける。
「俺が奪取した機体で運ぶか?」
最悪の場合、破壊するか、だ。
どれを選択するか。それは状況次第ではないだろうか。
「ラスティがいれば、な」
今回の作戦前にけがをして本国に残った相手を思い出してアスランは顔をしかめる。彼がいれば、こういう事態にも対処できたのではないか。
もっとも、今更言っても仕方がないことではある。
現状で取り得る最善の方法をとるしかないのだ。
「援護、お願いします!」
ともに来た者達にそう叫ぶとアスランは行動を開始する。
隠れていた場所から飛び出すと、手前に置かれた機体へと一息に駆け寄った。
そんな彼の耳元を銃弾がかすめていく。ヘルメットがなければ鼓膜に異常が出ていたかもしれない。もっとも、今のアスランにはそんなことを気にする余裕はなかった。
まずはあの機体を確保する。
その思いだけが彼を支配していた。
だが、その彼の意識がいきなり引き戻される。
「カガリ?」
視界の片隅を見覚えのある少女の姿がかすめたからだ。
何故、彼女がここにいるのか。
自分達がここを襲撃していることと関係しているのかもしれない。
それだけならば、まだいい。
一緒にいるのは地球軍関係者ではないか。その物腰から判断してアスランはそう考える。
彼女を保護するべきか。それとも、機体の奪取を優先するべきか。
どちらを優先すべきか、と一瞬悩む。
「私は大丈夫だ!」
次の瞬間、カガリの声が耳に届く。それは自分に言ったものではないのかもしれない。だが、それが彼女の本音なのだろうと言うこともわかった。
確かに、彼女であれば自力で何とかするだろう。
それよりも、自分の任務を優先しなければいけないのではないか。
しかし、と思わずにいられない。
カガリを見捨てたと知ったら、キラはどう思うだろう。
カガリ以上に、彼女に嫌われるのが怖い。そう考えてしまうのは幼い頃の体験があるからだろう。
「だから、放せ!」
カガリはさらに相手を怒鳴りつけている。
それがアスランの背中を押した。
カガリを助けるために銃口を地球軍関係者へと向ける。そのまま、引き金を引く。
銃弾は狙ったとおり、相手の肩をかすめた。
その衝撃で手から力が抜けたのだろう。カガリが相手の手を振り切っている。そのまま、彼女は通路の方へと駆け出していった。
これならば大丈夫だろう。そう判断をして、アスランはコクピットへと向かう。
後は自分が無事に退避するだけだ。
「もったいないが、あれは破壊するしかないか」
そのためにも、まずはこの機体を使い物になるようにしなければいけない。そう考えながら、体をコクピットへと滑り込ませた。
まさか、それよりも早く、あの機体を動かすものがいたとは思ってもいなかった。