愛しき花

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  08  



「と言うことで、善は急げだな」
 カガリはこう言うと同時に、キラを立たせる。
「それで、どこに行けばいいんだ?」
 キラの腕をつかんだまま、彼女は視線をシンへと向けた。
「とりあえず、モルゲンレーテの近くまで……そこで別れた方がいいでしょうけど」
 どこからどうやって移動するか。カガリはそれを知らない方がいい。シンはそう続ける。
「そうだな。私は知らない方がいい」
 カガリはあっさりとうなずく。
 彼女の性格から考えれば、それはおかしいと言える。だが、事前に話がついているのであれば、彼女なりに納得をしているのだろう。
「……それでも、ぎりぎりまで一緒にいるからな」
 視線をキラに向けると、カガリはそう言ってくる。
「査察はいいの?」
 仕事で着たのではないのか。そう問いかければカガリは笑みを作った。
「お前のこと以上に優先すべきことはないさ」
 今は、と彼女は続ける。
「次にいつ会えるか、わからないからな」
 さらに付け加えられた言葉に、キラは少しだけ困った笑みを浮かべる。
 ならば、行くのをやめようか。そう言いそうになったのだ。
「とりあえず、行きましょう」
 レイがこう言ってくる。
「そうだな」
 カガリもそれに同意した。そのまま、キラの背中を押すようにして歩き出す。
 そのまま、ラウンジを出ようとしたときである。
「キラ!」
 誰かが彼女の名を呼んだ。それだけではない。駆け寄ってくる足音が耳に届く。
「今から、ゼミに行くの?」
 そのままぶつかるように抱きついてきたのは、顔見知りの少女だった。
「フレイ……」
 何と言うべきだろうか。そう思いながら彼女の名を口にする。
「これから、教授のお客様を案内するところ」
 とりあえず無難であろう答えを口にした。
「それ、他の人に頼めないの?」
 フレイはそう言いながらキラの顔をのぞき込んでくる。
「どうして?」
 彼女のわがままはいつものことだ。しかし、今日は何か違和感を感じてしまう。
 どうしてだろうか、と思いながら問いかける。
「どうしてって……お願いしたいことがあるからなんだけど……」
 次第に彼女の声が小さくなっていく。
「ごめん。それじゃ、無理。これは僕が任されたことだから、無責任なことはできない」
 はっきりと言っておいた方がいいだろう。そう判断をしてきっぱりと告げた。
「どうしても?」
 それでもフレイはあきらめない。
「どうしても」
 だからと言って、引き下がるわけにはいかない。
「それに、僕に頼まなくても、サイがいるでしょう?」
 彼に頼めばいい。キラはそう付け加える。
「だって、サイの説明ってわからないんだもん」
 彼の場合、自分がどこはわからないのか、それを理解してくれないから。フレイは頬を膨らませながらこう言った。
「だから、キラに教えて欲しいの」
 彼女はそう言うと、キラの腕をしっかりと抱きしめる。
「後でね。もう行かないと」
 時間が迫っているから、とキラはそっと彼女の手を外す。
「キラ!」
「またね」
 次にいつ会えるかわからないけれど、と心の中で呟く。そして、カガリ達の元へと駆け寄る。
「キラ!」
 フレイの声が微妙に心にいたかった。

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最遊釈厄伝