愛しき花

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  07  



 入り口の方を向いていたレイが、誰かに合図をするように手を上げる。
「誰か来たの?」
 ゼミの仲間だろうか。そう思いながら、キラは何気なく振り向いた。
 次の瞬間、彼女の表情がこわばる。
「……嘘……」
 そこにいたのは、ここにいるはずがない相手だった。しかも、どうやらカガリだけではなくレイとも知り合いらしい。
 カガリだけならばオーブにいた頃にあっていたからおかしいとは思わない。でも、レイはどこで知り合ったのだろうか。
「何で……」
 それ以上に、どうして彼がここにいるのかがわからない。
「アスランが連絡したんだろうよ」
 カガリが何でもないことのようにそう言う。
「カガリ?」
「この前、愚痴メールを送りつけたからな」
 キラの疑問に答えるように彼女はこう続けた。
「全く……私よりも過保護だぞ、あいつは」
 キラに関しては、とカガリはため息をつく。
「さすがに自分で来るのはまずいと思ったんだろう」
 シンをよこしたのは。そう付け加えた。
「……レイは、何で?」
「プラントに行くときに知り合ったんです。もっとも、俺はオーブに戻ることになりましたが、連絡だけは取り合っていたので」
 年齢が近かったから、とレイは続ける。だから、友人になったんだとも。
 その言葉は嘘ではないだろう。
 だが、まだ隠している『何か』があるような気がする。
「ともかく、だ。そいつが来たなら話は簡単だ」
 まじめな表情を作るとカガリは口を開く。
「お前はそいつと一緒にプラントに行け。手はずは整えてある」
 彼女が何を言ったのか。キラにはすぐに飲み込めない。
「カガリ?」
「セイランがあれこれとよからぬことを画策してくれている。それからお前を守るには、プラントに避難させるのが一番だ」
 その間に、自分達も動ける。彼女はそう言い返してくる。
「そう言うカガリは?」
 大丈夫なのか、と問いかけた。
「私の方はな。いくらでも逃げ道がある。アスランのこともあるしな」
 婚約破棄をする気はさらさらないし、と彼女は笑う。
「いざとなったら、また家出をするさ」
 それは何なのだろうか、とキラはため息をつく。
「そうしてください、キラさん」
 シンが口を開く。その声が記憶の中にあるものよりも低いものだと言うことにキラは驚く。
「俺が安全な場所まで守りますから」
 彼はそう言うとキラの顔をのぞき込んでくる。
「もっと詳しい説明をしたいんですが、今は時間がないんです」
「シン君……」
 そう言われても、と思う。
「そうしてください。何なら、俺もつきあいますから」
 レイもすぐにそう言ってきた。
「……でも……」
 自分だけ逃げ出してもいいものか。そう思わずにいられない。
「お前を人質に取られると私だけではなくサハクのお二人も動けなくなるからな」
 カガリはそう言いながらキラの肩に手を置いてくる。
「だから、私達のためにも安全な場所にいてくれ」
 頼む、と彼女は続けた。
「卑怯だよ、カガリ」
 それにキラはため息とともに言葉を返す。
「そう言われたら、いやって言えないじゃないか」
 本当に、自分の性格をよくわかっている。
「仕方がないだろう。お前が大切なんだから」
 カガリはそう言うと笑って見せた。

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最遊釈厄伝