愛しき花

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  06  



 慎重にハッチを開ける。
 次の瞬間、ディアッカが中へと爆薬を投げ込む。それはセンサーを破壊した。
 それを確認してから、彼らは内部へと体を滑り込ませる。同時に少しだけ安堵がアスランの中に芽生えた。
 いくら作戦のためとはいえ、ノーマルスーツだけで宇宙空間を移動するのはさすがに不安を覚えてしまう。目に見えないサイズのデブリでも、ノーマルスーツを破壊するには十分すぎるほどの威力があるのだ。
 それでも、敵に気づかれないためには仕方がないのか。
 アスランは自分を落ち着かせるために深呼吸をする。
 そんな彼の視線の先でディアッカが合図を送るように手を動かしていた。
 センサーを殺したとはいえ、自分達の潜入を気づかれる可能性は少しでも減らした方がいい。その方が、被害を少なくすることができるはずだ。
 そう考えながら、アスランはうなずく。そのまま、静かに移動を開始する。
 他の者達も同様にその場に集まった。
 イザークがノーマルスーツの手首につけられた時計を指さす。
 そこに示された数字から判断をして、自分達は予定通りのタイミングで行動していると言える。
 ならば、次は目的地への移動か。
 視線だけで他の者達へと同意を求める。
 それに、誰もがうなずいて見せた。
 これならば大丈夫だろう。
 後は、どれだけ手際よく作戦を終わらせられるか、だ。
 自分達の動き一つで無用な被害を増やすかもしれない。他のメンバーは気にしないかもしれないが、自分は違う。自分の婚約者はオーブの首長家の一員なのだ。
 彼女の立場も考えなければいけない。
 それはそれで厄介だ。だが、と思う。だからこそ守れるものもある。
 もう二度と、大切なものを失わないためなら何でもするさ。アスランは心の中でそう呟く。
 そのまま、彼はさらに奥――プラント内部へと向かって歩き出した。

『目標確認』
 スピーカー越しに報告が飛んでくる。
「了解」
 と言うことは、あの情報は全て正しかった、と言うことだ。もちろん、それは疑っていなかった。問題なのは、とミゲルは続ける。
「しかし、隊長はどこから持ってきたんだろうな、あれ」
 ラウの交友関係は、未だによくわからない。
 気がつけばラウは自分達に必要な情報を手に入れてきているのだ。それがザフトの情報部からのものでないことも、彼の副官的ポジションにいるミゲルは知っている。
 だが、とすぐに思い直す。
「そのおかげで助かっているんだ。いいことにしておくか」
 必要なのは、作戦の成功だ。そう割り切ることにする。
「潜入組は?」
 位置についたのか? とミゲルは問いかけた。
『先ほど、準備完了の合図がありました』
 後はミゲル達が動くだけだ。そう言い返される。
「わかった」
 目標が停止したところで郷愁をかける、とミゲルは言い返す。
 当然、あちらも反撃をしてくるはずだ。タイミングを間違えれば被害が大きくなる。
 オーブを完全に敵に回すわけにはいかない以上、一般市民への被害は最小限に納めなければいけない。
 だとすれば、連中の気が緩んだ瞬間を狙うしかない。
 その間にも、モニターに映し出されている目標はハッチの中へと吸い込まれていく。
 その姿が完全にハッチの中へと消えた。
「行くぞ!」
 次の瞬間、ミゲルは仲間達に指示を出す。
 まるで引き絞られた弓から放たれた矢のように、彼らの乗り込んだジンが隠れ場所から飛び出す。
 そのまま、まっすぐに閉まりかけているハッチへと機体を滑り込ませていった。

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最遊釈厄伝