愛しき花
05
「……カトー教授に?」
カガリの言葉に、キラは思わず聞き返す。
「そうだ。お前のゼミの担当だったよな?」
「うん」
あれこれと厄介事を押しつけてくれるけど、と心の中だけで付け加える。
「でも、教授に会うならこっちじゃなくてモルゲンレーテに行かないと……」
今日は一日、あちらにいるはずだ。だから、とキラは続けた。
「そうか……」
ミスをしたな、とカガリは顔をしかめる。
「まぁ、いい。お前たちが通っているカレッジを見学するのもいい経験だ」
自分には通学の機会は与えられなかったからな。彼女はそう続けた。
「……カガリ……」
「気にするな。その代わり、私は別の勉強方法を与えられている」
そちらの方が性に合っているしな、と彼女は付け加える。
「それでも、学校という響きは別の魅力がある」
と言うことだから案内しろ。カガリは笑ってキラの肩を叩いた。
「わかったよ」
仕方がないな、とキラは言い返す。
「でも、僕がモルゲンレーテに行くまでだからね」
一応断っておかないと、あれこれと理由をつけて最後までつきあわされそうな気がする。そう思いながら、キラは言葉を重ねた。
「モルゲンレーテ?」
だが、カガリはかすかに険しい表情を作ると聞き返してくる。
「そうだよ。教授があちらにいることが多いからね。僕たちもあっちで実験をさせてもらっているだけ」
たまに手伝わされるけど、と何気なく付け加えた。
「それがどうかしたの?」
ますます厳しい表情になたカガリに、キラはそう問いかける。
「ひょっとしたら、私の仕事にかかわってくるかもしれない。そう考えただけだ」
そうすれば、ちょっと困ったことになるかもしれない。彼女はさらに言葉を重ねる。
「まぁ、いい。それも査察が終わってから考えればいいことだ」
だが、すぐに割り切ったという表情でこう言った。
「せっかくお前に会えたのに、あれこれ悩むのはばからしいからな」
せいぜい楽しまないと、と口にすると彼女は笑みを作る。
「と言うわけで、まずは学食に案内してくれ」
一度入ってみたかったんだよな。そう続ける。
「……おいしくないと思うよ」
カガリの口に合わないと思う。キラはそう言うと視線をレイへと向けた。
「そうですね」
自分達には普通だと思えるが、と彼もうなずく。
「別に、毎日うまいものだけ食べているわけじゃないぞ、私だって」
いいから、案内しろ。カガリはさらに言葉を重ねる。
「どうしようか」
ここまで言うと言うことは、連れて行くまでは引き下がらないと言うことだ。それはそれで厄介だし、と思いながらキラはレイに声をかけた。
「仕方がないですね。食堂よりはカフェの方がいいかもしれないです」
メニューの種類が多いから、と彼は言葉を返す。
「それしかないか」
キラはそれにうなずく。
「どこでもいい。学生らしいところに連れて行ってくれ」
そう言うと、カガリはキラの背中を押し始めた。逆らいきれずにキラは歩き始める。
そのせいだろうか。
レイが端末を取り出して何か操作していることに、この時のキラは気づかなかった。