愛しき花
04
人目がない場所で、手早く着替える。さすがに、ザフトのノーマルスーツで街中を闊歩するのはまずい。そう考えるだけの分別はまだシンにもあった。
「作戦開始までに合流できるといいんだけど」
そう呟きながら立ち上がる。
「あいつと一緒にいるはずだから、心配いらないと思うんだけどさ」
それでも、万が一という可能性は否定できない。
作戦が始まってしまえば、はぐれてしまう可能性だってある。何と言っても、相手はキラなのだ。
「ともかく、今いる場所を確認しないと」
そう言いながら、シンはツールバッグから手のひら大の端末を取り出す。
「あいつのことだからスイッチを入れ忘れているなんてミスはしないと思うけど……」
でも、ここはプラントではない。
だから、どのようなアクシデントがあるのかわからないのだ。
「でも、アスハが味方だって言うなら、大丈夫かな?」
オーブの規格と多少違っていても彼らが何とかしてくれるのではないか。
だから、きっと作動しているに決まっている。
自分に言い聞かせるようにそう呟くと、端末を起動させた。次の瞬間、そこに光点が浮かび上がる。
「さすがは、レイ!」
ぬかりない、と呟く。
そのまま、その光点の位置と事前に入手しておいた内部の地図を重ねた。
「……急がないと、間に合わないかもな」
そう呟くとシンは周囲を見回す。
「カーポートまで行けば、エレカがあるはずだから……」
自分のIDはまだオーブでも生きているはず。だから、使えるはずだ。そうすれば、多少とはいえ余裕が生まれる。
「強引な手段は執りたくないしな」
言葉とともに、シンは駆け出していった。
ミゲル達とともにシンが出発して、すでに一時間ほど経っている。
「合流できていればいいが」
口の中だけでアスランはそう呟く。
「アスラン?」
何か言いましたか? とニコルが問いかけてくる。
「そろそろ時間だな、と思っただけだ」
苦笑とともにそう言い返す。
「そうですね」
あっさりと彼はうなずいてみせる。
「確かに、緊張します」
今までとは違い、生身での戦闘になるだろう。だから、と彼は続けた。
「今までも、他人の命を奪ってきたというのに、おかしいですね」
ニコルはどこか自嘲気味の笑みでそう言う。
「それは俺も同じだ」
だが、とアスランは続ける。
「戦争を終わらせるためには必要なことだろう」
そう割り切るしかない。
もっとも、割り切れないこともあるというのは事実だ。自分達にとってそれは《キラ》と言う存在なのだろう。
「後は、みんな無事で戻ってくることを希望するしかないな」
アスランはそう続ける。
「……こちらがやられる可能性もありますね」
作戦が成功することを祈るしかない。そして、そのために最善の努力を尽くすしかないだろう。
「とりあえず、訓練の内容を忘れなければ大丈夫だろうな」
それはシンにも言える。
アスランがこう考えたとき作戦開始を伝える合図が聞こえてきた。
「行くか」
「そうですね」
アスランの言葉にニコルはうなずく。それを確認して、アスランは床を蹴った。