愛しき花
03
人混みの中でも、すぐに彼女の姿を見つけることができる。
それは相手も同じはずだ。
自分達の間には特別な絆があるのだから。心の中でそう呟きながら、カガリは合図を送るために手を上げる。
「カガリ!」
それに気がついたのだろう。キラとレイはまっすぐにこちらに向かってきた。
「今度は何をやって家出してきたの!」
しかし、開口一番、これはないだろう。そう思わずにいられない。
「家出じゃない。ちゃんと仕事だ」
即座にカガリはそう言い返す。
「お父様に頼まれたんだ」
そう言って胸を張る。
「本当に?」
キラはしつこくも確認の言葉を口にした。それはきっと、過去のあれこれのせいだろう、と言うのはカガリにもわかっていた。
しかし、ここまで疑われなければいけないことなのか。
「本当だ! 私を信用していないのか?」
思わずこう問いかけてしまう。
「……マーナさんにあれこれ言われるたびに僕のところに逃げてきていたでしょう?」
キラはため息とともにこう言ってきた。
「それは否定しないが……でも、今回は本当だからな」
モルゲンレーテの査察だ、とカガリは小声で付け加える。
「その前に、会いたい人物がいる。だから、お前たちを呼び出したんだ」
この言葉に、キラは首をかしげて見せた。
「カガリなら、アポなしでもあえるのに?」
そのまま、こう口にする。
「できれば、査察が終わるまで、私がここに来ていると知られたくない」
必要な資料を隠される可能性があるから、と言えばキラは納得したらしい。
「わかった。と言っても、運転はレイなんだけど」
自分はただ乗せてもらっているだけだ、とキラは苦笑を浮かべる。
「僕だって、一応、免許はあるのに」
レイが来るまでは普通に運転していた。キラはそう呟いている。
「いいじゃないか。そうするとレイが楽しいんだろうし」
それに、とカガリは声を潜めると付け加えた。
「ラウに言われているんだろうしな」
「そういうことですね」
レイはそれをあっさりと肯定してみせる。
「ラウさんって……レイはひょっとして……」
「そのあたりのことはエレカに乗り込んでからだ」
誰が聞いているかわからないからな。そう付け加える。
「それはいいけど……」
こう言いながら、キラはレイの顔へと視線を向けた。それはきっと、あいつのことを思い出しているんだろうな、とカガリは推測をする。
「とりあえず、お前が通っているカレッジに案内してくれ」
にやり、と彼女は笑う。
「その間に、いろいろと最新情報を教えてやるから」
あちらから連絡があったからな、と付け加えた。
「……元気そう?」
アスラン、とキラは問いかけてくる。
「殺したって、死ぬもんか。あいつは」
何があっても意地でも生き残るだろう。カガリはそう断言した。
「第一、あいつと来たら、私よりお前を心配しているんだぞ」
全く、とため息をつく。
「あいつの婚約者は私のはずなんだが」
「……カガリさんに手を出す馬鹿はいないからじゃないですか?」
アスハの次代に手を出して混乱を引き起こすのはまずい。そう考えてくるのではないか。レイがそう言ってくる。
「だろうがな」
それでも、やっぱりなんかが違うと思う。そう考えずにいられない。そういたくなるカガリだった。