愛しき花
02
誰かに呼ばれたような気がしてモニターから視線を上げる。
「どうかしましたか?」
すかさず、レイが問いかけてきた。
「……僕の気のせいだったみたい」
それに、キラはこう言い返す。
「それよりも、授業は?」
行かなくていいの? と首をかしげながら問いかけた。
「今日は一限目、休講なんです」
だから、大丈夫だ。彼はそう言って笑った。
「そう言うキラさんは? いいんですか?」
「うん。とりあえず、ゼミだけだから」
今やっている作業を終わらせれば、別に行かなくてもいい。と言っても、そう言うわけにもいかないだろうが。
「なら、送りますよ」
ゼミまで、と彼は笑う。
「一人でも大丈夫だよ」
キラはすぐにそう言い返す。
「それよりも、友だちと一緒に過ごしたら?」
いつも自分のそばにいる。それでいいのか、と思うのだ。
「……そばにいてはいけませんか?」
即座にレイはこう言い返してくる。
「俺がキラさんのそばにいたいんです。だめですか?」
「そう言うわけじゃないけど……」
キラのためと言われたら断れる。だが、レイがと言われると難しい。それがわかっているから、彼もこう言ってきているのか。
「よかった」
レイはそう言って嬉しそうに笑う。
「それならば、時間までそばにいますね」
彼がそう言ったときだ。彼の鞄の携帯端末が着信を告げる。
「レイ、なっているよ?」
キラは何気なくそう指摘をした。
「そうですね」
誰だろう、と彼は首をかしげる。メールをしてくる人間は多くても、通話をしようとする人間は少ないのに。そう呟きながら、彼はポケットの中から端末を取りだした。
そのまま、相手を確認するように視線を落とす。
次の瞬間、彼の目が大きく見開かれた。
「……レイ?」
いったい誰からなのだろうか。聞いてはいけないとは思いつつ、ついついキラは彼に呼びかけてしまう。
「カガリさんです」
いったいいつ来たのだろうか。彼はそう言うと通話ボタンを押す。
「カガリが?」
その名前を聞いた瞬間、キラはいやな予感に襲われる。
「まさかと思うけど、また、家出をしてきたわけじゃないよね?」
彼女ならやりかねない。そう考えてしまうのは、過去に何度も経験があるからだ。両親がいた頃はもちろん、キラが一人で暮らさなければならなくなってからもちょくちょく転がり込んできた。
そういえば、レイは最後に彼女が転がり込んできたときに紹介してくれたんだったな、と心の中で付け加える。
「……はい。わかりました。キラさんと一緒に出迎えに行きます」
やはり家出をしてきたらしい。レイの言葉から、キラはそう判断をした。
「今度は何をやらかしたんだよ、カガリ」
キラはそう言ってため息をつく。
「そこまでは……とりあえず、確保しに言った方がいいと思いますよ」
「そうだね」
仕方がない、と言うとキラは広げていた荷物を片付けだす。
「でも、僕を巻き込まないで欲しいな」
そう思わずにいられない。
「もうあきらめるしかないですよ」
苦笑とともにレイはうなずいてみせる。
「あぁ、荷物を持ちますよ」
そのまま彼は手を差し出してきた。
「……落とさないけどね」
でも、お願い。キラはそう言いながら、その手に鞄を預ける。
「では、行きましょうか」
レイがそう言って笑った。