愛しき花
01
ブリーフィングルームの空気はぴりぴりと張り詰めている。それは作戦前ならば仕方がないことなのだろうか。
しかし、としんは心の中で呟く。
自分にとってはそれ以上に――と言えば軍人として失格なのかもしれないが――重要なことが待っていた。
「俺たち第一班とアスラン達第二班の役割分担は以上だ」
パイロット達のリーダーとも言えるミゲルがそう言う。
「問題はお前らだな」
彼はそう付け加えながら、視線をシンへと向けて来た。
「目標の顔を知っているのは、お前とアスランだが……わかっているだろうが、アスランはあてにできない」
彼にはもっと別の役目があるからな、とミゲルは言った。
「わかっています。あそこにいたこともありますし、目標の居場所もわかっていますから」
即座にシンは言い返す。
「不審に思われるかもしれませんが、逆にその方が連れ出せると思います」
シンはさらにこう付け加えた。。
「……本当は、俺も同行できればいいんだがな」
ため息とともにアスランがそう言ってくる。
「そうすれば、あいつが少々だだをこねても、実力行使ができる」
それが一番手っ取り早いんだが、と彼はそう続けた。
「許可は出ているしな」
さらに彼はそう付け加える。
「許可?」
誰からだ、とディアッカが問いかけてきた。
「婚約者殿からだが?」
アスランは平然と言い返す。その婚約者が誰なのかもシンは知っていた。
「お前の婚約者というと……オーブの?」
「あぁ。あいつのいとこ姫だ。俺の幼なじみでもある」
オーブ国内では現在、微妙な立場に置かれているらしい。だから、プラントで保護して欲しい、と連絡してきた。アスランはそう付け加えた。
「すでに、一人頼まれていたしな」
本当は、そのときに一緒に保護していればよかったのだ。アスランはさらにそう付け加える。
「父上も、そうおっしゃっていたが……」
「あの時点でおばさんが入院していたから無理だったと思いますよ」
キラが彼女から離れるはずがない。シンはそう断言する。
「確かにな。あそこの親子は仲がよかった」
だからこそ、キラが微妙な立場に追い込まれている訳なのだろう。アスランはそう言ってうなずく。
「それに……すでに、あの人が手を打っていると言っていましたよ?」
そういえば、とシンは付け加えた。
「……親はプラントに来られなかった、と言うことか?」
イザークが確認するように問いかけてくる。
「あぁ……キラは第一世代だ」
ご両親はナチュラルだ。アスランはそう言う。
「そうでなければ、話は簡単だったんだよ」
ため息とともに言葉を吐き出す。
「父上を巻き込んで、全員、プラントに移住させればよかったんだから」
いくらパトリックでも、ナチュラルをプラントに呼び寄せることは不可能だ。それでも、まだ、両親が生きていた頃ならば、キラを守ることができたのだろう。
「……おばさまだけではなくおじさまも亡くなられたらしいからな」
それをいいことに、キラを利用しようとしている者達がいる。そういうことらしい。
「あいつの才能は、第二世代にも劣らない」
その才能を狙われている。それだけで他のメンバーにもキラの置かれている状況が理解できたのか。
「第一世代だろうと第二世代だろうと、同胞は同胞だな」
イザークがそう言う。
「しかも女の子なら、守るのは男として当然ですね」
それにニコルも同意をして見せた。
「でも、お前に言われちゃ、相手も複雑な気持ちになるだろうな」
すかさずディアッカがそう突っ込む。
「どういう意味でしょうか?」
少しだけむっとした表情でニコルが言い返す。
「決まっているだろう。お前が小さくてかわいいってことだ」
シンと二人セットでな、と予想していたとおりのセリフを口にしてくれる。
「そこまでにしておけ。状況は理解できたんだろう?」
ミゲルがあきれたように口を挟んできた。それに、その場にいた者達は全員うなずいてみせる。
「なら、さっさと準備にかかれ」
いいな、と言われて、いやと言えるはずがない。彼らは皆、それぞれの準備のために動き出した。