秘密の地図を描こう
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彼らが来るだろう、と予測はしていた。しかし、ここに入り浸りになるとは思ってもいなかった。
「みんな……自分の艦にいなくていいの?」
それも隊長自ら、と思わず言ってしまう。その視線の先にいたのはもちろん、ミゲルとイザークだ。
「これだけ接近していればな」
にやり、とイザークが笑う。
「そうそう。うちの居残りくんが何とかしてくれるでしょう」
さらにミゲルもそう言って笑った。
「そういえば、アスランは来てないね」
真っ先に来ると思っていたのに、とキラは呟く。
「あいつらが入り浸っているからな」
仕方がない、とミゲルが苦笑とともに視線を向ける。
「レイはともかく、シンがここまでお前になつくなんて、最初の頃は考えもしなかったな」
「むしろ遠ざけることを考えていましたからね」
言葉とともにニコルがキラの肩越しに顔を出す。その瞬間、ミゲルとイザークがかすかに頬を引きつらせたのがわかる。
「終わったの?」
それを無視して、キラはこう問いかけた。
「えぇ。おもしろいデーターがとれましたので、これから解析です」
もっとも、と彼は続ける。
「その結果を行かせる新型の開発はできるかどうかわかりませんけどね」
必要なければそれでいい。彼はそう言って笑った。
「そうだね」
戦争は終わったし、とキラもうなずく。
「と言うことで、お茶飲むよね?」
「もちろんです」
でも、自分で用意しますから……とニコルが笑ったときだ。
「キラもお茶のおかわりする?」
その声を聞きつけたのだろう。ステラがこう問いかけて来た。
「うん。ステラが淹れてくれるの?」
最近、彼女はみんなにお茶を淹れるのを楽しみにしている。だから、とうなずいてみせる。
「ニコルのも、淹れる?」
「お願いします」
彼もそれを知っている。だから、こう言って微笑んでいた。
「すぐに用意してくるね」
全部でいつつ、と言うことはシン達のものも、なのだろう。
「ともかく、あの子達も自分でやりたいことが増えてきてよかったです」
戦うことしか知らないのではかわいそうだ。ニコルが呟くようにそう言った。
「そうだね」
特にステラは女の子だ。もっともっといろいろな経験をして欲しいと思う。だからといって、他の二人がそうではないというわけではない。ただ、彼らの場合、マードック達の仕事に興味があるらしいのだ。マードックもそんな二人を可愛がっている。だから、大丈夫だろうと思う。
「そういえば、お前はどうするんだ?」
不意にイザークがこう問いかけてくる。
「このまま、オーブの軍人を続けるわけではあるまい?」
「そのつもりなんだけどね。まだ、決めてない」
ラウも自分の好きにしていいと言ってくれているし、とキラは苦笑とともに続けた。
「ただ、下手に軍を抜けると、それはそれで厄介なことになりそうなんだよね」
いろいろと、と苦笑を浮かべる。
「だろうな」
どこの陣営もキラを引き抜きたいと思っているだろうから、とミゲルもうなずく。
「それもあるけど……とりあえず、今回のことがきちんと片付くまでは、軍人でいようかな……って思っている」
責任があるから、とキラは言いきった。
「そう言うところは変わってないよな」
無理するなよ? といいながらミゲルはキラの頭をなでる。
「ちょっと、隊長! キラさんに何しているんですか!」
その瞬間だ。周囲にシンの声が響き渡った。
「あきらめろ、シン」
ミゲルの方が年上だ、とレイがため息混じりに彼をなだめている。
「代わりに、お前がキラさんになでてもらえばいいだろう?」
「それじゃだめなんだって!」
いったい何がだめなのだろうか。キラはそう考えて首をかしげる。
「なでて欲しいなら、いくらでもなでてあげるけど」
ステラ達にもそうしているから、とそのまま口にした。
「あの子達は素直ですからね」
苦笑とともにニコルは言う。
「ザフトに入ると、みんなどこか、素直じゃなくなるんですよ。そこにその典型例がいますよ?」
彼はそう言うとイザークへと視線を向ける。
「人のことが言えるのか、貴様は!」
即座にイザークが反論を返す。
「まぁ、お互い様と言うことで……素直すぎて困った奴になるよりマシだろう?」
それは誰のことだろうか。そう思いながら、キラは首をかしげる。同時に、人影が視界の中に入ってきた。
「……隊長が隊長だったからな」
あまりのタイミングの悪さに何と言っていいのかわからない。
「それは私のことかね?」
確認しなくてもわかっているだろうに、こういうときの彼は意地悪だ。同時に、すごく楽しそうでもある。
「そう言ってやるなって」
凍り付いた彼らを見つめながらムウがため息をつく。それが妙に大きく感じられた。