秘密の地図を描こう

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「そこを動くな!」
 言葉とともに何かが空を切った。次の瞬間、ムウの腹部にカガリの渾身のパンチが食い込んでいる。
「……カガリ……手加減をするって……」
 そう言っていなかったか、とキラは思わず突っ込んでしまった。
「手加減しているぞ。けりは入れてないだろう?」
 本気ならけりを入れている、と彼女は平然と口にする。
「そうかもしれないけど……」
 でも、そういう問題じゃないと思う……とキラは口の中だけで付け加えた。
「心配するな、キラ」
 よろり、と立ち上がるとすがるようにムウは彼の肩に手を置いてくる。
「覚悟はしていたんだが……ここまでお嬢ちゃんの力がアップしていると思わなかっただけだって」
 ますます雄々しくなったんじゃないのか? と彼はせめてもの仕返しとばかりに口にした。
「周りの男どもが女々しすぎたからな」
 自分が強くならなければいけなかっただけだ、とカガリは言い返す。
「僕も?」
 思わずキラはこう問いかけてしまった。確かに、三年ばかり行方不明になっていて彼女たちに心配をかけてはいたがと呟く。
「お前は別だ」
 だが、彼女は即座にこう言い返してくる。
「カガリ?」
「お前には休む時間が必要だった。そう言うことだろう?」
 そもそも、オーブにいなかっただろうが……と彼女は笑う。
「えこひいきだろ、それは」
 自分だってオーブにいなかっただろうが、とムウは呟く。
「キラは生きていることがわかっていたが、お前は死んだはずだっただろうが!」
 もう一発殴られたいか? とカガリはムウへと視線を戻した。
「そこまでにしておけ」
 そのときだ。不意に別の声が割り込んでくる。
「カナードさん?」
 と言うことはカガリの護衛というのは彼のことだったのか。なら、絶対に安全だろう、とキラはほっとする。
「久しぶりだな」
 そう言いながら、彼は近づいてきた。
「皆、集まっているぞ」
 後は、カガリとキラ達だけだ……と彼はそのまま口にする。
「そうか。では、急がないとな」
 カガリはあっさりと態度を翻す。その変わり身の早さに感心すべきかどうか。
「お前たちの今後にも関係しているぞ」
 ふっと思い出したように彼女はそう付け加える。その言葉にいやな予感を覚えてしまったのは、過去のあれこれがあったからか。
「何か、逃げ出したいかも」
 キラは思わずそう呟いてしまう。
「あきらめろ、キラ。逃がしてくれると思うか?」
 あいつらが、とムウが指さす先には、ラウ達の姿が確認できる。
「ラウさんも心配性だから」
「……そう言う問題じゃないと思うぞ、お兄さんは」
 キラの言葉に即座にムウが突っ込んできた。
「そうですか?」
 自分が知っているラウとムウが知っている彼は別人なのだろうか。そんなはずはないとわかっているのに、ついついそんなことを考えてしまう。
「まぁ、お前らの腐れ縁に関してはどうでもいいがな」
 カガリが笑いながらそう言ってくる。
「これからもしばらくは一緒に行動してもらうことになるんだ。けんかはするなよ?」
 キラに迷惑がかかる、と彼女は続けた。
「僕?」
 どういう意味か、と思いながら視線を向ける。
「……どのみち、しばらくは監視が必要だろうからな。オーブ軍とザフトが中心になって関し組織を作ろうと言うことになったんだよ。デュランダル議長との話の中で」
 苦笑とともに彼女は言う。
「その責任者をお前に頼みたい。あぁ、実務はそいつらに押しつけていいからな」
 オーブからはアークエンジェルを中心にしたメンバーを選出することになっているから、とさらりと付け加えられる。
「カガリ!」
「あきらめろ。今はお前以外に任せられる人間がいない」
 だから、書類仕事は全部ムウに押しつけろ……と彼女は笑う。
「お前がトップなら、ジャンク屋ギルドも協力すると言っている」
 さらにカナードが口を開く。
「俺も、必要なら手を貸してもかまわない」
 さらに彼はこう言ってくる。
「カナードさん!」
「……オーブはともかく、ザフトは大変なことになりそうだな、あの調子では」
 そう言って彼は笑った。
「実力勝負と言っていたからな、デュランダル議長は」
 すべては正式に発表してからだ、とカガリもうなずく。
「やっぱり、逃げ出していい?」
 好きなときにやめていいと言ったよね? とキラは言う。しかし、それに対する答えはただ二言だった。

 条約締結とともに新組織の設立について発表された。それが、新しい時代の幕開けでもあった。
「あきらめなさい、キラ」
 苦笑とともにラウがそう言ってくる。
「ラウさん……そうは言いますけど……」
 でも、とキラは反論しようとした。
「何。どのみち、ブルーコスモスの残党が一掃されるまでだよ。そう長い時間ではない。その後なら、逃げ出してもかまわないのではないかな?」
 しかし、彼はこう言って笑う。
「レイも、しばらくすれば合流するだろう。その後に考えても良いだろうね」
 彼に関しては、こちらから必要だと連絡をしておいた.そう続ける。
「さすがですね」
 いつの間に、と思わずにいられない。
「君のフォローは私の役目だよ。とりあえずね」
 当分、誰にも譲る予定はないが……と告げられて、キラは小さくうなずく。
「レイも一緒にいてくれると、楽しいでしょうけど……大丈夫でしょうか」
 元クルーゼ隊の面々だけではなくシン達も参加してバトルロワイヤルでメンバーを決めるという話だが……とキラは呟く。
「……あの男も手抜きに走ったか」
 まぁ、死人は出ないだろう.そう続けられて納得して良いものかどうかはわからない。
「まぁ、誰が来てもこき使うだけだよ」
「ラウさんならやりますね」
 すでに、ムウがその被害に遭っているようだし……とキラは視線を移動させながら苦笑を浮かべる。
「でも、やるしかないんでしょうね」
 自分達が、と告げれば、ラウはそっと肩を叩いてくれた。




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最遊釈厄伝