秘密の地図を描こう
178
彼らがブリッジに着くのを待っていたかのように、カガリからの連絡が入った。
「オーブ所属のプラント?」
『あぁ。地球軍でもザフトでもまずいだろう、と言うことでな』
妥協案、と言うことだ。彼女はそう言ってうなずいてみせる。
『そう言うことで、近場にいるザフトの艦と一緒に移動してくれ。』
それがミネルバとボルテールだと言うことは簡単に想像が付いた。
「……うちの連中が騒ぐな」
それは、とミゲルが呟く。
『アスランが馬鹿なことをやらかしたら、遠慮はするなよ?』
かまわないから放り出せ、とカガリも笑う。
『向こうで私も合流する予定だ。そのときにまとめて報復するのでもいいな』
もう一人、殴らなければいけない人間もいるし、と彼女は続ける。
「カガリ……自分が代表だって覚えているよね?」
さすがに人前でそれはまずいのではないか。キラは言外にそう言った。
『人前でなければいいんだろう?』
身内だけのところとか、と彼女は笑う。
『あいつも声をかければ、ほいほいとやってくるに決まっている』
そうかもしれないが、とキラはためきをつく。アスランはどこまでカガリに頭を押さえつけられているのだろうか。
「完全に尻に敷かれてるな、あいつ」
ディアッカが苦笑とともに告げる。自分があえて表現を濁したのに、とキラはため息をつく。
「人のことは言えないだろう?」
お前は、と即座にミゲルが突っ込んでいる。
「イザークの尻ぬぐい専門だろう?」
「やめてくれ!」
彼の言葉に、ミリアリアがあきれたような視線を向けてきたのがわかった。これでは、彼らの関係修復は難しいのではないか。あるいは、それがミゲルの狙いかもしれない。
『ところで、年長者三人組が足りないようだが?』
どうしたのか? と問いかけてくる。
「一応、連絡はしたんだけど……」
「話し合いがまだ終わらないようね」
無事ならいいんだけど、ムウ……とマリーが口を挟んできた。
『あぁ、そう言うことか』
納得した、とカガリは言う。
『とりあえず、私の分は残しておいてくれ、とバルトフェルド隊長には伝えておいてくれ』
楽しみが減るのはつまらない、とカガリは笑う。
「それこそ、お手柔らかに」
こき使う予定だから、とマリューは笑い返した。
『そうだな。仕事はたくさんあるか』
それにカガリはうなずき返す。
『お前も、仕事を押しつけてかまわないからな、キラ。それよりも、ちゃんと食事をとれ。少しやせたぞ』
彼女はさらに言葉を重ねてきた。
「そういうなら、少しはこちらに回す書類を減らしてくれる? ラウさんが手伝ってくれるけど、早く終わらせたら次の日、さらに増えるんだよ」
このままではゆっくりと食事もできない、とキラはため息をつく。
『お前が有能だ、とほめていたが……食事がとれないのでは意味がないな』
気をつけさせるように言っておく、と彼女は苦笑を浮かべた。
「そういえば、カガリはどうやって来るの? こちらからクサナギを行かせる?」
主な戦力はまだ、自分達に同行している。万が一のことを考えれば、カガリの方もしっかりと護衛しないといけない。自分の方はミネルバとボルテールも一緒にいてくれるし、と続けた。
『そうだな……マルキオ様も同行する予定だから、ギルドから誰かを派遣してもらう予定だが、クサナギがいてくれると楽か』
「じゃ、そう手配をするね」
言葉とともにマリューへと視線を移す。そうすれば、彼女は小さくうなずいて見せた。
『そのときには、何かお前の好きそうなものを持って行ってやるよ。そうしたら、みんなでお茶をしよう』
それを楽しみに、厄介事を片付けるか、と彼女は告げる。
「楽しみにしているよ」
キラの言葉にカガリは小さくうなずく。
『では、またな?』
カガリはそう言って手を振る。それにキラが微笑むと同時に、通信が終了した。
「おや……間に合わなかったようだね」
まるでそれを待っていたかのようにラウがブリッジに滑り込んでくる。しかし、その後に続く影はない。
「ムウさんとバルトフェルド隊長は?」
思わずこう問いかけてしまう。
「まだ話があるそうだよ.私は邪魔らしい」
その言葉の裏に隠されている意図に気づかないはずはない。
「マリューさん……」
「止めてくるわね。クルーゼさん、ここをお願いしますわ」
言葉とともに彼女は腰を浮かせる。
「お願いします」
この言葉に彼女は小さくうなずくと慌ててブリッジを出て行く。その後ろ姿を、誰もがため息とともに見送った。
翌日、ムウとバルトフェルドの顔が微妙に変形していたのは事実だった。