秘密の地図を描こう

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 アークエンジェルに戻れば予想外の人間が待っていた。
「アスラン?」
 何故、彼がここにいるのだろう。そう思いながら問いかける。
「多少、反省の色が見られたんでな。カガリとラクスが許可をだした」
 枷付きで、とバルトフェルドが笑いながら教えてくれた。確かに、その手にはしっかりとロープが握られている。さらに、その隣にはニコルの姿もあった。
 それだけではない。彼の左頬にはしっかりと赤い手形が刻まれている。
「……えっと……」
 何と声をかければいいのか。そう考える。
「それは、カガリ?」
 だが、言葉の方がするりとこぼれ落ちてしまった。
「……あっ……」
 とっさに口を押さえてももう遅い。
「いや……これはラクスだ」
 しかし、アスランはあっさりと言葉を返してくれる。
「ラクス?」
 だが、それも全く予想外の名前だと言っていい。
「あれは見事だったな。出会い頭の一発」
 にやりと笑いながらバルトフェルドがこう教えてくれる。
「その後で、カガリさんが腹部にけりを一発でしたね」
 見事に吹き飛んでいました、とニコルも続けた。それだけで脳裏に情景がしっかりと描き出せる。
「……ごめん、アスラン……」
 自分が悪いわけではないのに、ついつい謝罪の言葉を口にしたくなった。
「気にするな……ラクスはともかく、カガリの行動は予想の範囲内だ」
 アスランはアスランで、そう言い返してくる。
「それだけのことをしたんだ。まだ、マシな方だろう?」
 カガリが本気であればこの前と同じところにけりを入れただろうからな、とバルトフェルドがかすかに頬を引きつらせながら口にする。
「カガリさんが全力でけりを入れたら、失神しそうですよね」
 それどころか死ぬかもれない。ニコルすら頬を引きつらせながら言葉を綴った。
「……とりあえず、手加減してくれるんじゃないかな? カガリも」
 アスランのことを完全に嫌っていないし、とキラは言う。
「どうだろうな、今は」
 苦笑とともにアスランは言い返す。
「とりあえず、ザフトには連絡を入れた。捕虜にした指揮官の尋問は、俺とニコルでやる許可は得たから、安心しろ」
 後でミゲルが押しかけてくるかもしれないが、と彼は続けた。
 彼のその態度は、今までとは違う。いったい、どうしたのだろう、と首をかしげたくなる。
「何か、吹っ切れたのかな?」
 同じことを考えたのか。ラウがそう言った。
「どうでしょうね」
 曖昧な笑みとともにアスランは言葉を返してくる。
「とりあえず、ザフト関係はこいつらに任せておけ」
 そのくらいは役に立ってくれそうだ。バルトフェルドはそう言ってアスランの頭を軽く小突く。
「と言うことで、お前らはまず着替えてこい。その後で、クルーゼは連中のところに顔を出してやれ」
 いろいろとうるさいことになっているらしい、と彼は続けた。
「混乱しているようですね」
 気持ちは理解できるが、とニコルは言う。
「キラが部屋に落ち着いたら、そうさせてもらおう」
ラウはあっさりとうなずいてみせる。
「僕なら、一人でも大丈夫ですよ?」
 先にあちらに行ってきてくれ、とキラは言外に告げた。
「君の『大丈夫』は当てにならないからね」
「実際にその目で確認しないと……」
「本当は、その後も監視していたいくらいだけどな」
 ラウだけではなくニコルとアスランも即座にこう言い返してくる。
「……どうして、みんな、そう言うんだろう」
 ため息とともにキラはそう呟く。
「それをわからないのがキラだよな」
「まぁ、周囲が注意していればいいだけのことだ」
 彼らのこんな会話に、ますますやるせない思いに駆られるキラだった。


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最遊釈厄伝