秘密の地図を描こう

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 データー的に、彼が《ムウ・ラ・フラガ》と同一人物だ、と確認された。
「間違いなく本人だと思うよ?」
 クローンでは、外見は似せられても歯の治療跡や傷跡といったものまでは再現できない。
 つまり、彼は間違いなく自分達が知っている相手だ、と言うことになる。
「でも……」
「確かに、記憶はないね」
 忌々しいことに、とラウは続けた。
「だが、あの子達の様子を見ていれば、それも納得できるのではないかな?」
 記憶喪失の人間にマインドコントロールをしたのではないか。彼はそう続ける。
「そう言ったところでしょうね」
 ニコルもそう言ってうなずいて見せた。
「それについては納得したが……問題は、あっちだな」
 カガリがそう言ってため息をつく。
「バルトフェルド隊長とラミアス艦長はいい雰囲気だったからな」
 アスランもそう言ってうなずいて見せた。
「別に、恋人といった感じではありませんでしたけれども……いい距離でおつきあいされていたのは事実ですわね」
 ラクスも彼の言葉に同意を示す。と言うことは、自分がプラントにいた間に、そう言うことになっていたのだろう、とキラは判断をする。
「ともかく、記憶さえ戻ればいいんだよな」
 どうなるにしろ、とカガリが呟く。
 そんな彼女の表情にいやなものを覚えたのは自分だけではなかったらしい。
「カガリ……フライパンで殴っても記憶が戻るとは限らないからな」
 アスランがこう言う。
「むしろ、そのまま目を覚まされない可能性の方が大きいですわね」
 さらにラクスまでもが言葉を重ねた。
「ひどいな。私が力一杯殴っても、気絶する程度だろう?」
 即座にカガリが反論をする。
「いやですわ、カガリ。それはアスランだからですわよ」
 ころころと笑いながらラクスがそう指摘した。
「キラに同じことをしたら、絶対に入院する羽目になりますわ」
 そのセリフも何なのだろうか、と思わずにいられない。
「キラにはやらないぞ。こいつは、生身だと私よりも弱いからな」
 さらにカガリが追い打ちをかけてくれる。
「まぁ、こいつはそれでいいんだけど」
 キラまでそんなに強くなっては、姉として困るだろう。カガリは真顔でそう言う。
「せっかく姉弟だとわかったのに、何もしてやれてないからな」
 逆に迷惑だけかけまくっている、と彼女は続ける。
「こいつのことといい」
 もし、自分と恋仲になっていなかったら、アスランがここまでキラにストーカーめいたことをしなかったのではないか。
「それはあり得ませんわ。アスランですもの」
 どんなことをしてもストーカー寸前のことはしたのではないか。ラクスはそう言いきる。
「確かに、それは否定できないね」
 何かを思い出したのか。ラウもうなずいて見せた。
「本当。もう少し早く、キラのことを教えてくれていたら、もっと違った結果になっていたでしょうに」
 さらにニコルがアスランへと追い打ちをかけた。
「……俺だけが悪いのか?」
 さすがのアスランも怒りを覚えたのか。そう言い返してくる。
「少なくとも、僕たちにキラのことを教えてくれなかったのは事実ですよね?」
 負けじとニコルが口を開く。
「アークエンジェルに、あの時点で民間人が乗っていたと知ったのは、オーブに保護されてからのことですよ?」
 他にもいろいろと聞かされましたが? と彼はさらに言葉を重ねる。
「ニコルに口で勝とうと思うのが間違ってない?」
 これ以上あれこれ言われるとかわいそうではないか。そう思ってキラはアスランにそう問いかけた。
「……キラ」
「ミゲルやディアッカだけじゃなく、イザークさんもそう言っていたよ?」
 それに微妙にニコルの表情が変わったような気がする。
「まぁ、否定はできないね」
 だが、それもラウが納得したというようにうなずいて見せたときまでだ。
「その気になれば、あの男と舌戦を繰り広げても五分の勝負を繰り広げてくれそうだよ」
 これは冗談だったのだろうか。
「ともかく、話を元に戻すが……実力行使は控えてくれるかね、カガリ姫」
 さすがに、捕虜虐待と言われたくないだろう……とラウは真顔で口にしている。
「ちっ……仕方がないな」
 ついでに、その舌打ちはなんなのか。そう言わずにいられない。
「本気だったな、これは」
「そうですわね」
 アスランとラクスの会話に、思わずニコルと顔を見合わせて苦笑を浮かべてしまうキラだった。


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最遊釈厄伝