秘密の地図を描こう
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自分はよほど信用されていないのだろうか。最近は、ミゲルの視線の届く範囲での任務が多いような気がする。
それも仕方がないか、とアスランは苦笑を浮かべた。
そのときだ。
「あらあら。ずいぶんとすてきな表情ですわね、アスラン」
彼の耳に聞き覚えがある声が飛び込んでくる。
「ラクス嬢?」
ミゲルが驚いたように顔を上げた。つられるようにアスランもまた声がした方向へと視線を向ける。
「婚約者に会いに来ましたの」
ふふ、っと彼女は意味ありげに微笑む。
「ラクス、その話は……」
「どうやら、プラント国内ではまだ、わたくし達の婚約は解消されていないようですわ」
小さな笑いとともに彼女はそう付け加える。
その彼女の仕草に違和感を覚えた。
同時に、その違和感を以前も抱いたことがあると思い出す。
「それは君の判断か?」
目をすがめるとそう問いかける。
「アスラン?」
どうしたのか、とミゲルが口にした。しかし、彼が知らないはずがない、と思う。
「君はミーア?」
確認するようにそう問いかける。
「どうでしょう」
そう言って彼女は首をかしげた。
「本物のラクスは、そこまで胸が豊かではありませんよ?」
とりあえず、と決定的な違いを突きつける。
「アスラン、それは……」
さすがにまずいだろう、とミゲルがささやいてきた。しかし、アスランにしてみればどうでもいいことだといえる。
「本当のことだろう?」
本人達にしてみれば重要なことかもしれないが、自分には区別のための記号でしかない。そう言い返す。
「だから、キラさんに嫌われるんですよね」
ラクスのふりをするのはやめたらしいミーアが小さな声でそう呟く。
「何!」
しかし、それは聞き逃せないことだ。反射的にアスランは彼女を怒鳴りつけた。
「相手のことを気遣えないから、言われたくないことを平然と口にするんですよね?」
キラの時だってそうだったのではないか。
「それでは、嫌われても仕方がないでしょう?」
違うのか。彼女はさらに言葉を重ねた。
「そんなことは……」
「あるかもな」
さらにミゲルまでが追い打ちをかけてくれる。
「ミゲル!」
「キラだって人間だぞ? それに、昔から言われているだろう? 仏の顔も三度までって」
そろそろやばいのではないか。彼はそう付け加えた。
「その前にラクス様達が許さないと思いますけど?」
ミーアもそう言ってくる。
「ともかく、婚約者としてきた、と言うのは事実です。機体がない以上、今できる仕事もないのでしょう?」
違うのか、と彼女は笑った。
「そんなことは!」
「あるな。実際、俺の使いっ走り以外、していないだろう?」
今は、と彼は言う。
「そう言うことだから、使うなら、持ってっていいぞ」
言葉だけではない。まるで犬を追い払うような仕草でミゲルはそう言った。
「では、遠慮なく」
ミーアはそういうとアスランの腕に自分のそれを絡めてくる。だけならばまだしも、自分の豊かな胸が直接そこに当たるような位置で、だ。
「行きますよ、アスラン」
「気をつけて行ってこい」
言葉とともに二人はそれぞれの行動を開始する。
「きちんと説明をしろ!」
そう叫ぶアスランの言葉に、誰も答えを返してくれなかった。