秘密の地図を描こう
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その頃、レイとシンはアスランに見つからないように行動を起こしていた。
「大丈夫だ、ステラ。次に行く場所は、絶対、安全だから」
シンはぐったりとした少女にそう呼びかけている。
「急げ。ミーアさんがごまかしてくれるとわかっているが、それでも相手はアスランだ。何をしているかわからない」
そんな彼に、レイが呼びかけた。
「わかっているよ」
即座に彼は言い返してくる。
「でも、ステラが具合悪くなったら本末転倒じゃん」
確かにそうかもしれない。だが、どうあがいても自分達が使うのは軍使用の機体だ。乗り心地など、最初から考慮されていない。
「お前が抱きかかえていればいいだろう?」
ため息とともにレイはそう口にする。
「あ、そうだな」
言われてみればそうだ、とあっさりとうなずく彼に拍子抜けをしてしまう。しかし『これでようやく出発できる』と考えていたことも事実だ。
「いいぞ」
さほど時を置かずにシンが声をかけてくる。
「了解」
即座に言葉を返す。
「発進許可を」
そのまま完成へと通信を入れる。
『確認しました。発進どうぞ』
MSではないからか。複雑なプロセスを飛ばして許可が出る。
「了解。発進する」
言葉とともに、彼は連絡艇を発進させた。
「久しぶりにキラさんの顔を見られるな」
後部座席からシンが言葉をかけてくる。
「不謹慎かもしれないけど、嬉しいかも」
彼の言葉にレイは思わずうなずいていた。
確かに、キラに会うのは久々だ。正式に軍人になってからもなかなか会えない日は続いていた。しかし、こんなに長期間、彼と顔を合わせなかったのは初めてかもしれない。
ひょっとしたら、ギルバートの方が顔を合わせているのか。
ふっと、その事実に気づいてしまう。
「普通なら、逆だよな」
キラとはよく顔を合わせても、忙しいはずのギルバートには会えない方が多い。そう呟く。
「何か言ったか?」
それが聞こえたのだろう。シンが聞き返してくる。
しかし、本当のことを言ってもいいものかどうか。
「あちらには、アマルフィ教官もいたな、と思っただけだ」
そういえば、と言い返す。
「そういや、そうか」
嫌みを言われないといいな、と彼はすぐに口にする。どうやら、それで納得してくれたらしい。それとも、納得したふりをしてくれたのだろうか。
「キラさんがいるから大丈夫だと思うけどな」
ステラを連れて行くことは、と彼は続けた。
「おそらくな」
いくらニコルでも、キラの前であれこれと嫌みを言うことはないだろう。
「もう一人の方はわからないが」
キラその場にいるであろう人物のことを思い出しながら付け加える。
「それよりも、あちらにはアスハ代表もいる。決してけんか腰になるなよ?」
それこそ、台無しになりかねない。言外にそう告げた。
「わぁってるよ。ステラがいるから我慢する」
いかにも彼らしい返答が返ってくる。
「そうしてくれ」
言葉とともに、アークエンジェルへと連絡を入れようとレイは通信機を操作した。