秘密の地図を描こう
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アスランが指示してきたのは、ディオキアから少し離れた岩の多い海岸だった。
「キラ!」
カガリとともにそこに降り立てば、即座に懐かしい声が響いてくる。
「ミリィ?」
視線を向ければ、記憶の中にある姿よりももっと成長した姿が確認できた。
「元気そうだね」
微笑みながら、キラはそう告げる。
「それはこっちのセリフよ」
全く、と彼女はため息とともに言い返してきた。
「しかも、あいつ経由でしかメールのやりとりができなかったって、何?」
おかげで、余計なメールまで見ないといけなくなったでしょう、と彼女は言ってくる。
「ごめん。ちょっと厄介な立場だったから……ディアッカ経由なら怪しまれないですむかなって」
「まぁ、それは否定できないけど」
こっちも監視されていたようだし、とミリアリアがため息をつく。
「どういうことだ?」
聞き逃せなかったのか。カガリが口を挟んできた。
「何か、メールが開封されていた形跡があるのよね」
ばれないようにしていたのかもしれないが、自分達が使っているのはキラが作ったソフトだから……と彼女は言う。
「あいつ経由だと、恥ずかしいことしか書いていないし……キラからのメールはしっかりと偽装されていたから大丈夫だったみたいだったけど」
でも、いやよね……と彼女は付け加える。
「誰の仕業か、だいたい想像が付くあたり、もっといやだけど」
ため息とともにミリアリアはそう言う。
「言っておくが、私でもアスランでもないぞ」
とりあえず、とカガリが主張した。
「わかっているよ、カガリ」
セイランの仕業だろう。しかし、その理由がわからない、と思う。
「でも、今はそれよりもあの人が問題だと思うわ」
そう言いながら、ミリアリアが空を見上げた。
「……何を考えているんだろうね、アスラン」
つられて視線を向けた瞬間、キラは思わず自分の行為を後悔しそうになってしまう。
「さすがの私も、あれはフォローできないな」
カガリですらため息とともにこう言った。
「ザフトってMSの私的使用が認められているわけじゃないわよね?」
いくら何でも、とミリアリアが呟く。
「そんな話、聞いてないよ」
後でラウかミゲルあたりにでも確認してみよう。キラがそう呟くと同時に、深紅の機体が着地した。
「セイバーに不具合はないようだね」
ともかく、とキラは意識を別の方向へと向けようとこんなことを呟く。
「でも、不具合があった方がよかったのかな?」
少なくとも、あれでここに来ようとは思わなかっただろうに、と口にしてしまう。
「もっと派手なので来られるよりましか?」
それにカガリがこう突っ込んできた。
「まぁ、そうだけど……十分派手だよね?」
キラがそう言ったときだ。セイバーのハッチが開く。同時に見慣れた藍色の髪が確認できる。
「で、どうするの? カガリ」
「どうするかな」
とりあえず、あいつの第一声を聞いてからだ。そう言う彼女のが無意識に指をならしている事実を指摘するべきかどうか。キラは悩む。
相談するかのようにミリアリアに視線を向けるが、彼女も苦笑を浮かべるだけだ。
「……軍服でないだけましか」
その間にも、アスランはセイバーから下りて来ている。
「ラクスがいなかっただけ、マシかな?」
そういうしかできないキラだった。