秘密の地図を描こう

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 キーボードを叩いていた指を不意に止める。そのまま、キラはモニターから顔を上げた。
「ラウ、さん……」
 そして、そばにいてくれる彼に呼びかける。
「そばにいるね、確かに」
 キラが何を言いたいのかわかったのだろう。ラウはそう言ってうなずいて見せた。
「戦闘が?」
 始まるのだろうか、とキラは再度問いかける。
「どうだろうね。こちらの動きを監視しているだけ、と言う可能性もあるが」
 気に入らないことは確かだが、と彼は口の中だけで付け加える。
「どちらにしろ、認識しているのは我々だけだ。まぁ、レイには忠告しておくがね」
 彼も間違いなく感じ取っているだろう。だから、対処はしてくれるのではないか。ラウはそう言う。
 いや、むしろ対処できなければいけないと彼が言外に告げた。それはイヤミではなく気に入っているからこそのセリフだ、と言うことを今のキラは知っている。
 それでも、それを向けられた人間は大変かもしれない。
「ラウさんって、スパルタ?」
 思わず唇からこんなセリフがこぼれ落ちた。
「どうだろうね。しかし、苦労をしない人間は伸びない。それは事実だよ?」
 もっとも、と彼は笑う。
「君の場合は、しなくてもいい黒馬で背負っているようだからね」
 別にそんなつもりはないのだが、とキラは首をかしげる。
「本人が自覚をしていないから周りがやきもきするのだろうがね」
 困ったことだ、とラウはわざとらしいため息をついて見せた。
「とりあえず、レイを呼び出すか」
 出撃直前であれば難しいかもしれないが。そう続けながら彼は立ち上がる。そのまま、壁に取り付けられている端末へと歩み寄っていく。
「でも、艦内が騒がしいから」
 部屋の中に閉じこもっていてもそのくらいのことはわかる。
 これもきっと、アークAngelでの経験があったことと、自分の精神が張り詰めているからだろう。
「と言うことは、近くにいることを発見したのかもしれないね」
 その程度できてもらわなければ困るかもしれないが、と言外に彼は告げた。
「……まてよ?」
 ふっと彼は表情を変える。
「ラウさん?」
 どうかしたのか、とキラは表情を曇らせた。
「カガリ・ユラが騒ぎを引き起こした、と言う可能性もある」
 真顔で告げられた言葉を否定できない。むしろ、彼女ならば十分にあり得るとすら思えてならないのだ。
「……カガリ、お願いだから少しは空気を読んでよね」
 難しいかもしれないが、と彼はため息をつく。
 だが、そう言うところをアスランは好きになったのではないか。そうも思える。
「君が出て行くわけにはいかないのだ。あまり思い悩まなくていいのではないかな?」
 厄介事はギルバートに押しつけてしまえばいい。彼はそう言って笑う。
「……いいのでしょうか」
「それが彼の仕事だ。かまわないだろう」
 ひとつやふたつ、厄介事が増えても……と彼は続ける。
「だから、君も押しつけてかまわないのだよ」
「それは、ラウさんだからいえる言葉だと思います」
 昔からの知り合いだから、とキラは言い返す。
「それなら、君のことも生まれる前から知っているはずだよ、あの男は」
 確かにそうかもしれない。しかし、それとこれとは別問題ではないか。
「それに、あの男は君に迷惑をかけられるのを楽しんでいるしね」
 全く、困ったものだ。そう言って彼は笑みを深める。
「まぁ、私もあの男のことはいえないかもしれないがね」
 面と向かってそう言われると、どう反応していいのかわからない。
「そう、ですか」
 こう言い返すのが精一杯だ。
「ともかく、君はそれを完成させてしまいなさい」
 そんなキラにラウは優しい笑みとともにそう言う。
「……はい」
 とりあえず、それが無難ではないか。そう判断をすると、キラはまたモニターに意識を戻した。

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最遊釈厄伝