秘密の地図を描こう
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いったいどこまでごまかされてくれたのか。それはラウにもわからない。だが、今この場で知らせるよりも後からの方が衝撃は少ないのではないか。
それに、と彼は続ける。
恨まれるのは別人――と書いてギルバートと読ませる――に押しつけてしまえばいい。
心の中でそう呟く。
「さて……上手くレイが捕まればいいのだが」
キラの様子を気配で確認しながらそう口にした。
「だめならば、ミゲルでかまわないか」
彼に伝えておけば必ずレイの耳に入るはずだ。
それに、と脳裏で続ける。
いくらあの二人でもこんな時にMSデッキに足を踏み入れるはずがない。だから、自分達の存在に気づかれることはないだろう。
それでも、念には念を入れておきたい。そう考えてしまうのは、どのような時にでもイレギュラーは存在する、と自分が一番よく知っているからだ。
そう。
前の対戦の時のキラのように、だ。
そして、彼以上に突飛な行動に出るのが《カガリ・ユラ・アスハ》だと認識している。そして、彼女は自分の感情を優先する人種でもある。
それ故に、他人の心情には鈍感だ。
本当に、この双子はいろいろな意味で正反対だと思う。そして、それは彼らの両親にもいえる。そしてカガリの性格は、ユーレンのそれにそっくりだ。
だから自分はカガリが苦手なのだと改めて認識した。
「それも、どうでもいいことか」
自分が彼女に積極的に関わることはない。
だから、彼女が苦手ならば距離を置けばいいだけだ。
そう結論を出したところでタイミングよくレイを捕まえることができた。
『ラウ?』
何か、と彼が問いかけてくる。
『時間がないのですが』
さらに彼はこう付け加えた。
「気づいているね?」
それに聞き返すことで答えを返す。
「キラが心配していてね」
『……すみません。今、気がつきました』
一瞬遠い目をした後で、レイはこう言い返してきた。
「気づいたならかまわない。気をつけるように」
本人かどうかはわからない。だが同じレベルの実力を持っているのは間違いないだろう。
「君に足りないのは経験だけだ。だからそれを補う方法を考えなさい」
自力で何とかしなければ身につかないものだ。だから、聞かれるまではあえてヒントは渡さない。
『はい』
レイも同じ気持ちなのか。小さくうなずいてみせる。
『ラウ達も、気をつけてください。それと……万が一のために、いつでも避難できるようにしておいてください』
だが、この言葉は想定外だ。
「そうか」
わかった、とラウは言う。
「時間をとらせてすまなかったね」
それにレイは『いいえ』と言うと通話を終わらせる。
「……ラウさん?」
二人の会話が耳に届いていたのか。キラが呼びかけてくる。
「大丈夫だろう。なれていないだけだ」
この感覚に、とラウは微笑んだ。
「戦場に出ていれば多少鬱陶しいこれも、なれれば有効に使えるからね」
さて、と話題を変える。
「最低限、持って行かなければいけないのは……君のパソコンかな?」
「そうですね。一応、ミネルバに乗り込む以前のものはバックアップがありますが……」
使い慣れているものを手放すのは、後でいろいろ厄介な状況を引き起こすから……とキラもうなずいてみせる。
「では、持って行くものは多くないね」
いざとなれば、キラを抱えて移動すればいいだけか。ならば、何とでもなるな……とラウは心の中で呟いていた。