秘密の地図を描こう
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艦内の空気がとげとげしい。
もっとも、それは当然と言えば当然なのかもしれないが、とアスランはため息をつく。
「俺たちは、ある意味、招かざる客だからな」
軍事機密が詰まったこの艦にはいてほしくない存在なのだろう。
しかし、だ。
もう少し、何とかならないものか。そうも考えてしまう。
「議長に呼び出されたのだがな、俺は」
もっとも、彼らにはそれが伝わってない可能性がある。だから、我慢するしかないのだ。
それはわかっている。
「カガリを一人にしておくのは別の意味で怖いんだがな」
彼女のことだ。退屈に厭いて何をしでかしてくれるかわからない。もっとも、けがの痛みがまだあるようだから、それほど無理はしない、と思いたいが。
しかし、相手はカガリなのだ。
彼女に常識が通用するとは思っていない。
「頼むから、おとなしくしていてくれよ」
出てくる前にさんざん念を押してきたが、とアスランは心の中で付け加える。それでも信用できないのだ。
これが、キラの言葉であれば話は違うのだろう。あるいはラクスか。
そう考えると同時に、自分の存在は彼女にとってなんなのかと疑問に感じてしまう。
「……口うるさい恋人?」
それとも、と呟いたところで、アスランの口元に苦笑が浮かんだ。
「共犯者か」
一番近いのは、とようやく答えを見つけた。
キラという存在を取り戻すための共犯者。
今の自分達を言い表すのにそれが一番ふさわしいのではないか。そうも考える。
逆に言えば、自分達が前に進むためにはキラの存在が必要なのだ。
だから、とアスランは心の中で付け加えた。
「少しでもいいから、あいつの情報を引き出さないと」
もっとも、相手が相手だけに難しいことはわかりきったことである。それでも何とかしなければいけない。
「あの人が素直に教えてくれれば、それだけでカガリもおとなしくなるのに」
ため息とともにそう続ける。
「何、ぶつぶつ言っているんだ?」
言葉とともに背中をたたかれた。そんなことをするのは当然、この艦内に一人しかいない。
「痛いぞ、ミゲル」
片目を眇めながらそう言い返す。
「そう言うなって。このくらい普通だろう?」
彼はそう言いながら笑った。
「ともかく、議長のところだろう? 俺も報告があるから一緒に行こうぜ」
言葉とともに肩を抱いてくる。
「それはかまわないが……」
隊長がそんな態度でいいのか? と言外に問いかけてしまう。それはきっと、脳裏に描かれる《隊長像》がラウのそれだからかもしれない。
「いいんだよ。とりあえずは、な」
議長への報告の方が優先だろう? と彼は笑う。
「副長に聞かれるのはまずいし」
あの人はなぁ、とミゲルはため息をつく。
「優秀なんだろうが、落ち着きがない」
無駄に騒がれると周囲も冷静さを失うし、と彼は続けた。
「仕方がないのだろうな、それは」
これが初めての実戦なのだろう、と言い返す。
「俺たちだって、初めての実戦の時にはただ見ているだけしかできなかったからな」
あのときはミゲルをはじめとした、経験がある者達がいてくれたから可能だったことだろう。
しかし、キラは違った。
経験どころか心構えもできないまま戦場に放り出され、戦うことを強要された。しかも、親友だった自分と、だ。それでも、何とか持ちこたえていたのは、ナチュラルの友人達の存在があったから、だろうか。
「……キラ」
無意識のうちに彼の名前が唇からこぼれ落ちる。そのとき、ミゲルがどのような表情をしていたのか。アスランには見えなかった。