秘密の地図を描こう
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「今、眠ったところだ」
だから、静かにしろ……とラウは言外に告げてくる。
「そうか。ならば、起きてからにしよう」
自分も少し疲れているから、とごまかすことなく口にした。
「そうか」
ラウはあきれることなくそう言い返してくる。
「茶ぐらい、淹れてやろうか?」
さらにこんなセルフまで口にしてきた。
「それとも、君の場合、グラディス艦長の方がいいのかね?」
だが、ラウはあくまでもラウだった。しっかりとイヤミを口にしてくれる。
「彼女は、今、そんな余裕がないよ」
敵を追わなければいけないからね、と言い返す。
「と言うことは、逃げられたわけだ」
相手の方が一枚上手だったと言うことか。ラウはそう呟く。
「まぁ、それは当然だろうね。用意周到に準備をしなければ、今回のようなことは不可能だろう。アーモリーワンが崩壊しなかっただけ、マシと言うところかな」
彼はさらにそう続けた。
「確かに。まぁ、有事の時でもそうならないようなコロニー設計を行わせたのだがね」
ヘリオポリスの悲劇を繰り返させなために、とギルバートは言外に告げる。
もっとも、それにもかなりキラが関わってくれたことは否定しない。オーブの工業カレッジの学生だったという彼の知識は、プラントのそれと同レベルなのだ。
そして、今回はそれがプラスに働いたことも事実である。
しかし、だ。
そのせいで彼をこの艦に乗せたまま、敵艦を追撃することになってしまった。
「だが、このままではキラ君の体調が心配だね」
もう一つ厄介事がある以上、とため息をつく。
「あれのことか?」
ラウの脳裏にあるのは、間違いなく《シン・アスカ》のことだろう。
「彼の方は当面大丈夫だろうね」
キラの体調が悪いという点、そして、何よりも目の前に厄介事が存在している。だから、こちらまでは押しかけてこないだろう。
むしろ、そう言った意味で心配なのはグラディス達ではないだろうか。
「君にはつきあってもらわなければいけないかもしれないが……逆に、それが目くらましになるかな?」
この一言にラウの眉根が寄る。
「何があった?」
低い声で彼は問いかけてきた。
「キラ君は、完全に眠っているかな?」
それには直接言葉を返さずに、逆にこう問いかける。ラウは、それで彼に聞かせたくない内容だと理解したのだろう。確認するように耳を澄ます。
「小声ならば大丈夫だろう」
キラが熟睡することは滅多にないから、と彼はため息とともに付け加える。
「かといって、薬に頼りすぎるのもな」
彼にとってはプラスではないだろう。そう告げるラウの言葉は正しい。
「確かに」
その結果、彼の精神に異常が出ては困る。
「今のキラ君には、ストレスは厳禁だからね」
それがどうしてなのか。はっきりとわからない自分が悔しい。それだけでも解消できれば、キラは安心して日々を過ごせるはずなのだ。それこそ、オーブに帰ることもできるだろう。
「……そのストレスの種が二人、この艦に乗り込んでいるのだよ」
イレギュラーで、とため息混じりに付け加える。
「オーブの姫とその護衛か」
「あぁ。おとなしくシェルターに入ってくれればよかったのだがね」
そうしてくれなかったのは、三年前の経験があったからだろうか。
「しかも、姫はけがをされているし」
守るべき対象をそばに置いたまま戦闘を行うとは、と続けた。
「困ったものだね」
ラウも眉根を寄せるとそう告げる。
「優先すべきことがなんなのか。考えられないとは」
それがわからない人間が護衛をするとどうなるか。よくわかる事例だ、と彼は続けた。
「ともかく、極力顔を合わせないようにしてほしいね」
「もちろんだよ」
本当に困ったものだよ。そういえば、ラウはまたため息をついて見せた。