秘密の地図を描こう
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「……アスラン、ですか」
厄介ですね、とミゲルは素直に口にする。
「あいつ、キラの顔を見たら、強引にも連れ帰ろうとしますよ、絶対」
それがキラにとって良いか悪いかも考えずに、と彼は続けた。
「……アスランだから、ね」
キラもその言葉を否定しない。
「しかし、そうなると……ますます、却下だな」
あれは、とため息混じりに続けた。
「あれって、何?」
小首をかしげながらキラが問いかけてくる。もうじき二十歳になるというのに、そんなかわいらしい仕草が似合うというのは、別の意味で怖いような気がするのは自分だけか。
「あぁ……俺とお前が親しいと聞いて、仕事を押しつけたい連中がいるだけだよ」
だが、キラに渡す仕事は議長の許可が必要なのだ。だから、と彼は続ける。
「まぁ、この前みたいにこっそりと頼むことはあるけどな」
そのくらいはお目こぼしの範囲内だけど、と彼は苦笑を浮かべた。
「別に僕はかまわないけど」
「却下です!」
キラの言葉を同席していたレイが止める。
「ここでの作業でしたら大目に見ますが、隊長が指している仕事は、ミネルバに来てもらわなければいけませんし、大勢と関わることになりますから」
その中に、万が一、キラの過去を知っている人間がいたら困る……と彼は続けた。
「そうだな。議長もそれを心配されているようだし」
フリーダムのパイロットだとばれるだけならばいい。問題なのは、キラがストライクのパイロットでもあると言うことだ。
三年経っても、まだ、フリーダムを恨んでいる人間がいる。ストライクであればなおさらではないか。
「……そうだね。私があまり表立って動けないのも同じ理由だよ」
さらにラウが口を開いた。
「本当に必要だというのであれば、あの男が何とかするだろう。それまでは、おとなしくしていてくれるのが一番だね」
この言葉に、キラは少し考え込むような表情を作る。
「何。やらなければいけないことはたくさんあるよ」
いろいろとね、と微笑む彼にキラだけではなくレイが表情をこわばらせていた。
その表情の理由もミゲルにはわかっている。
「まぁ、俺が暇なときはつきあうからさ」
場の雰囲気を変えようかと口を開く。
「来週あたりにイザーク達もこっちに来るらしいし、ニコルも誘って遊びに行ってもいいんじゃね?」
そのくらいはかまいませんよね? と視線をラウへと向ける。
「そのくらいはね」
ミゲルだけならばまだしも、イザークとディアッカが一緒なら大丈夫だろう。ラウはそう言う。
「キラ君にも気分転換は必要だろう?」
何なら、自分も一緒に……と彼は笑いながら付け加えた。
「……それは……」
やめてくれ、と言いかけて必死にこらえる。
「冗談だよ。もっとも、あの二人をからかいたいとは思うがね」
自分と直に顔を合わせたことはないのだから、とラウは続けた。
「性格悪いですよ、ラウ」
そう指摘できるのはレイだけかもしれない。
「かまわないだろう? 口にするくらいは」
低い笑いとともに彼はこう言い返す。
「……僕は、ラウさんとならいつでもいいですけど?」
レイが休みの時にでも、とキラが言う。
「あぁ、それはそれでいいかもしれないね」
そういうことにするか? とラウが言い返した。
「俺もそれでかまいません」
レイもうれしそうにうなずいている。それに、少しだけおもしろくないと思ってしまうのはわがままなのだろうな、と見栄ゲルは心の中だけで付け加えた。
「とりあえず、シンとは別の日に休暇を取れるようにしておいてやるよ」
公私混同だが、そのくらいはかまわないだろう。
「おねがいします」
即座に返される言葉に、はいはいとうなずいて見せた。