秘密の地図を描こう
58
その頃、キラは意外な人物の訪問を受けていた。
「お忙しいのではありませんか?」
こう問いかけながら、紅茶を差し出す。
「君の様子を見に来るのも重要な仕事だよ」
自分にとっては楽しみでもあるし、とギルバートは微笑む。
「それに、君に頼みたいこともあったしね」
言葉とともに彼は一枚のデーターカードを差し出してきた。
「新型の設計図なんだが……これのOSを君に頼みたい」
その言葉に、キラの体がこわばる。
「キラ君?」
「また、戦争になるのですか?」
おそるおそる、そう問いかけた。
「心配いらない。今のところはまだ何とか踏みとどまっているよ」
もっとも、いつまであちらが我慢できるか。それだけが問題だろうね、と彼は続ける。
「君にごまかしを告げても意味はないだろう」
そう言ってくれるのは彼の優しさなのだろうか。だが、事実を事実として教えてくれることはいやではない。
「僕たちがしたことは、無駄だったのでしょうか」
大切なものを失って、それでも傷つきながら戦ってきたのに、とキラは心の中だけで呟く。
「そんなことはないよ」
言葉とともにギルバートがキラの頭に手を置いた。
「人々は戦いのない日々を経験した。それは大きいよ」
戦争と平和。どちらがよいかを実体験しているから、と彼は続ける。
「これも、実戦で使わずにすめばそれはそれでいい」
むしろ、その方がいいのだ……と彼は言った。
「ただ、こういう地位にいるとね。あれこれと先手を打っておきたくなるものなのだよ」
困ったものだね、と彼は苦笑を浮かべる。
「……もちろん、無理にとは言わない。ただ、君が一番信頼できるからね」
うかつな人間に任せて情報を流出されるわけにはいかない。彼はさらに言葉を重ねた。それがどうしてなのか、キラにもわかっている。
「……これは、レイに?」
心は決まりかけていた。それでも確認しておきたい。
「決めていないよ。あの子がふさわしいと思えば任せるかもしれないが、そうでないと言われたら、よりふさわしい人物に任せる予定だよ」
何故、と彼は聞き返してくる。
「どこまで手出しをすべきか、と思っただけです」
レイであれば、全部、手を出してしまいそうなので……と続けた。
「君たちは仲がいいね」
苦笑とともに彼はそう言ってくる。
「……そうですか?」
機会があればディアッカ達の機体のOSも手を出したいと思うが、本人達から『必要がない』と言われている。もっとも、彼らの場合それでも安心してみていられるというのは事実だ。
しかし、レイ達は違う。
彼らは実力はあると思うが、自分からすればまだゲームで遊んでいるようにしか見えない。
「まぁ、いいことだと思うよ。少し妬けるがね」
仲間はずれにされているようで、と彼は笑う。
「そう、ですか?」
そんなつもりはないが、とキラは呟く。
「冗談だよ」
でも、たまには顔を出しなさい……と彼は続ける。
「ラウも寂しそうにしているからね」
「……レイに会えなくて、ですか?」
「君だと思うよ」
まさか、と思ってしまうのは、ラウのあのときの言葉を今でも忘れていないからだ。
「彼は素直ではないからね」
そういう問題なのだろうか。何というか、イメージが違いすぎる、と思ってしまう。
「……僕もまた、あの人と話をしたいです」
これは本音だから、とキラは素直に口にする。
「君はいい子だね」
微笑みながらギルバートはそう言い返してきた。