秘密の地図を描こう
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ドアの隙間から講義室の中をのぞき込む。
「あれがそうか?」
ディアッカがそう問いかけた。
彼の視線の先にはレイの隣に座っているシンの姿がある。昨日のうちにレイの顔を見ていたから、すぐに見つけられた。
それを予測して、ニコルは夕べのうちに彼と引き合わせていたのだろう。
相変わらず食えない奴、と心の中で付け加える。
「あぁ……フリーダムのパイロットにこだわっていることは、俺も確認した」
それもあまりよくない感情で、とミゲルが言い返してくる。
「お前も言うなら本当なんだろうな」
ため息とともに言葉を吐き出す。
「実物は小動物系なのにな」
少なくとも肉食系ではない、とミゲルは続ける。
「第一、戦闘の最中にそんなところまで見てられないって」
その所為で、自分はど素人のキラに負けたんだし……とため息をつく彼にディアッカは苦笑だけを返した。
「それこそ、窮鼠猫を噛むってところだったんだろう」
友人達を助けるために、と彼は続ける。
「だから、ミリィは今でもキラの《友人》なんだろうな」
彼は最後まで誰かを『守る』ことを優先していた。コーディネイターだけではなくナチュラルも、だ。そして、それは今も変わっていないはず。
「と言うわけで、あいつを傷つける人間がいれば全力で排除しないといけないわけだ。二重の意味で」
もっとも、ガキだから矯正可能かもしれないが。彼はそう続けた。
「だといいけどな」
苦笑とともにミゲルが言い返してくる。
「とりあえず、今日は遠慮なくたたきつぶしてくれ」
もっとも、ディアッカにすれば思い出したくないシチュエーションかもしれないが……と彼は続けた。
「……まぁ、大丈夫だろう」
自分は割り切ることができる。何よりも、シミュレーションだし、と言う。
「キラには無理だろうけどな」
それが虚構だとわかっていても、とだ。
「わかってるって。だから、今回のことには関わらせないようにしている」
だから、さっさと終わらせようぜ……と彼は笑った。
「そうだな。今期の候補生の実力を確認させてもらおうか」
使い物になるかどうかも含めて、と続ける。
「あいつはともかく、他の連中はあまり泣かせないでくれよ」
後が厄介だから、とミゲルが言ってきた。
「さぁな」
そんなことを配慮していられるかどうか、わかったものではない。
「そう言うことはイザークにもいえよ」
自分よりも、と言い返す。
「言いたいけど、さ。あいつに言っても無駄だろう?」
一蹴されて終わりだ。即座にミゲルは反論してくる。
「まぁ、あいつならそうだろうな」
「わかってるなら言うなよ」
そもそも、戦場でそんなことを言っている余裕はない。それを訓練の時からきっちりとたたき込んでおかないといけないのではないか。
「だけどなぁ」
後でフォローしなければいけない身にもなれ、とミゲルは言ってくる。
「講師より戦場に出ている方が楽だぞ、マジで」
彼はさらにこう付け加えた。
「あきらめろ。俺たちだと目立ちすぎるからな」
キラの居場所がばれるかもしれない。それでは意味がないのではないか。
「わかってるって」
時間を確信しながらミゲルは言う。
「了解。久々に撃墜数を競うか?」
自分が勝つだろうが、とディアッカは笑った。
「言ってろ」
自分だって負けるつもりはない。彼の表情がそう言い返してくる。
「負けた方が、今日、おごりな」
この言葉を合図に二人は歩き出した。