秘密の地図を描こう
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シミュレーションとはいえ、あっさりと撃墜されたことに関する憤りはある。
だが、それ以上に怒りを感じたのは、今回の設定だ。
「……これは、あの日のオノゴロじゃないか」
何故、それを……と思う。
「あそこにザフトはいなかったはずだろ」
そう呟いて、あることを思い出す。
確か、フリーダムは元々はザフトの機体だった。それがクライン派に譲渡された。どういう経過をたどったのかはわからないがあの日、フリーダムはアークエンジェルとともにオーブに現れた。
それだけではない。あの後、ジャスティスも救援に現れたと聞かされている。
「バスターの姿もあったという噂もあったな」
ひょっとしたら、自分達に知らされていなかっただけで二つの組織には内密につながりがあったのだろうか。
「……わからねぇ」
調べようにも自分の今の立場では難しい。いや、不可能だと言っていいのではないか。
しかし、あきらめることもできない。
レポートを書かなければいけないこともわかっているが、それに手をつけることもできなかった。
「何で、俺にあの日のことを思い出させるんだよ」
忘れることはできない。だからといって、積極的に思い出したくないのに……とシンは続ける。
もちろん、これはあくまでもシミュレーションだと言うこともわかっていた。教官側に何か理由があるのだ、と言うこともだ。
でも、自分が参加している講義でやらなくてもいいだろう。そう言いたい。
だが、この怒りを誰にぶつければいいのだろうか。
膝の上で拳を握りしめながら、自分の気持ちを押し殺すのが精一杯だった。
結局、時間までにレポートを提出することができなかった。だから、呼び出されるのは覚悟していた。
「それで?」
ミゲルが弁明を求めるかのように問いかけてくる。
「……何故、オノゴロだったんですか?」
それにシンは逆に聞き返した。
「別に、あんなことをしなくてもいいでしょう?」
さらにこう付け加える。
「何でだ?」
「プラントで、あのような状況になるとは思えませんから」
ミゲルの問いかけに、シンはこう言い返した。
「……カーペンタリアとジブラルタルは地球に存在しているだろ」
そこが襲撃されないとは限らない。そして、現在の訓練生がそのときにそこに配属されている可能性だってあるのではないか。ミゲルが反論してくる。
「もちろん、お前もな」
違うのか? と彼は続けた。
「だからといって!」
「お前の個人的感情は関係ない。むしろ、そんな主張をする人間は必要ないな」
この言葉にシンは怒りを抑えきれなくなる。
「何故ですか!」
「決まっているだろう。これから、オーブと共闘する可能性だってある。そのときに、お前の個人的な感情で引っかき回されては困るからな」
その所為で、自分達が負けては意味がない。
「それとも、お前一人で戦局をひっくり返せるつもりか?」
彼は問いかけてくる。
「……フリーダムはやったと思いますが?」
なのに、自分の家族を助けてはくれなかった。そう続ける。
「それは違うな」
あきれたようにミゲルは言う。
「フリーダムだけで戦局を変えることはできなかった。帰られていたら、オノゴロであんなに苦戦することはなかったなかったはずだからな」
むしろ、あそこを陥落させることなく地球軍を撤退させられていただろう。
「第一、同じ状況に置かれたとき、お前はフリーダムと同じことができるのか?」
言外に『できないだろう?』と彼は問いかけてくる。
「そんなことは関係ない!」
シンはとっさにそう叫ぶ。
「何故、そう言いきれる?」
その瞬間、聞き覚えのない声が割り込んできた。