秘密の地図を描こう
30
時折、こっそりと届くメール。それが彼の近況を伝えてくれる。
「まぁ……」
久々に届いたそれに目を通して、ラクスは微笑む。
「よかったですわ」
とりあえず、これで懸念は一つ消えた。
もちろん、彼がキラを傷つけないとは限らない。だが、他の者達がなだめてくれるだろう。
それに、と心の中で付け加える。
彼らの言葉が本当であれば、最終的にはキラの味方になってくれるはずだ。
「後はやはり、あの二人ですね」
ため息とともにそう告げる。
「二人とも、ご自分が間違っているとは思っておられないようですし」
いや、正確に言えば確かに、彼らは間違っていない。状況が違っていれば、だ。
しかし、現状ではそれではだめなのだ。
今のままでは、キラを守るどころか危険にさらすだけだろう。
それが認識できないのは彼らのせいではないのかもしれない。それでも、とラクスは考える。
「ご自分達の力不足を認識しておられるのはよいことなのでしょうが、それを打開する方法を見つけられないのでは、まだまだです」
もっとも、と彼女は少しだけ苦い笑みを浮かべた。
「わたくしもまだまだかもしれません」
それでも、キラは彼らではなく自分を信用してくれている。ならば、その信頼に応えなくてはいけない。
「……ともかく、バルトフェルド隊長だけにはお話ししておいた方がよいのかもしれませんね」
キラのことを、と呟く。
「もっとも、キラに確認してからでないといけないでしょうが」
何よりも優先すべきなのは彼の意思だ。
「このまま、何事もなければいいのですが」
この状況が続くのであれば、あの二人も何かを気づいてくれるかもしれない。そうすれば、キラが隠れなくても済むのではないか。
「……難しいですわね」
それは、とため息をつく。
「とりあえず、返事を書かなければいけませんわ」
ついでにカリダ達の写真も送ろう。そうすれば、キラは間違いなく喜んでくれるはずだ。
「そうしましょう」
そう呟くと、ラクスはキーボードに手を伸ばした。
ふっと笑みを浮かべる。それはキラに見せているものとは別のそれだ。
「やっと、と言うべきでしょうか」
本当に鈍いですね、とニコルは口にする。
『うるさい! 元はと言えば、お前があんな回りくどいことをするからだろうが』
それとも、そんなに自分達が信用駅なかったのか……とディアッカは言い返す。
「少なくとも、あなたは信用していましたよ」
しかし、とニコルは続ける。
「他の方は『絶対大丈夫だ』と言い切れませんでしたので」
ギルバートが『大丈夫だ』と判断した人間の中にも、それを裏切ってくれた者達がいる。ディアッカ本人は大丈夫でも、その周囲の人間までそうだとは言えないのではないか。
「キラの立場は、プラント内部でも不安定ですから」
真実を知れば命を狙われかねない。そうでなくても、彼を利用しようとしている者達が少なくないのだ。
『キラがスト……フリーダムのパイロットだから、か?』
誰かに聞かれるとまずい。そう判断したのか。彼は無難な方の期待の名前を口にする。もっとも、それもかなりまずいと言えばまずいのだ。しかし、それは彼もわかっているはず。
「それもありますが……彼がデュランダル議長とラクス嬢。お二人に影響力を持っている、と言うことの方が重要らしいです」
そして、オーブにも……と言外に続けた。
『なるほど、な』
通信であれば、外部からののぞき見をすぐに察知することができる。しかし、メールではそうはいかない。そう言うことか……とディアッカは言い返してきた。
「そう言うことです」
だから、彼が気づくまで黙っているしかできなかったのだ。
『会えるのか?』
気づいた以上、と彼は問いかけてくる。
「こちらに足を運んでいただければ、たぶん」
もっとも、とニコルは笑みを柔らかなものに変えた。
「その前に、しっかりと手伝っていただきますけど」
いろいろと、とそのまま告げる。
『なんか、ものすごく怖いな』
ため息とともにディアッカはそう言い返してきた。
「そう難しいことではありませんから、安心してください」
ただ、こき使わせてもらうだけだ。それについての異論は聞かない。心の中でそう付け加えていた。