秘密の地図を描こう

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 キラに宣言した以上、我慢するしかない。
 しかし、やはりどうしても集中できない。
「全く……これだったら、おとなしく戻った方がよかったかもしれないな」
 今日の結果を見つめながらレイは微苦笑を浮かべた。
「まぁ、それでも格好をつけたいときもあるからな」
 好意を抱いている相手に対しては、と心の中だけで付け加える。
 その好意の意味がなんなのかはわからない。
 それでも、大切な存在なのだ。
「それに、少しでも早く追いつきたいし」
 決して追い抜くことはできない、とわかっている。わかっているからこそ、せめてその背中を預けてもらえる存在になりたい。
「あいつのように、キラさんを悲しませたりしない」
 今はオーブにいる、自称《キラの親友アスラン》のように彼を泣かせるようなことをするものか、と呟く。
「ともかく、試験だな」
 それさえ終わらせてしまえば彼らが待っている自宅に帰ることができる。そうすれば、ラウがどのような状態なのかも確認できるだろう。
 何よりも家ならば誰に気兼ねすることなく、キラと過ごせる。
「順位を落とすわけにはいかない以上、手を抜けない」
 それに、ラウに何を言われるか。それがわからない。
 レイがそう呟いたときだ。
「何ぶつぶつ言っているのよ」
 言葉とともに背中をたたかれる。
「……ルナマリアか」
 相手が彼女では怒ったところで意味はない。そう思いながら視線を向ける。
「止めてくれるとありがたかったんだがな、シン」
 代わりに、彼に向かってこう言った。
「お前ができないのに、俺にできると思うわけ?」
 ため息とともに彼が言い返してくる。
「できなくてどうする」
「止める間があれば、だろうが」
 はっきり言って、自分にルナマリアの思考を把握するのは無理、と彼は断言した。
「お前だってできないだろう?」
「……否定はしないが、な」
 身近に親しい女性がいなかったせいで、どうしても女性が何を考えているのか理解できないのだ。
「それよりも、何かうれしそうだけど、どうかしたのか?」
 以外と目敏い、とレイは思う。
「外出許可を取ったからな。これが終わったら自宅に帰る」
 そのせいだろう、ととりあえず言い返す。
「知人が退院するそうだから」
 さらにさりげなくそう付け加えた。
「それなら納得ね」
 親しい人がよくなったのであれば、喜ぶのは普通のことだから……と彼女はうなずく。
「……そういえば、レイの家って、アーモリー・ワンよね?」
 だが、次の瞬間、彼女はいきなりこう問いかけてくる。
「そうだが……それがどうかしたのか?」
 何か、微妙にいやなものを感じてしまうのは錯覚ではないだろう。
「おいしいケーキのお店があるのよね。お土産よろしく」
 満面の笑みとともに彼女はそう言った。
「……俺に買ってこいと?」
「いいじゃない、そのくらい。幸せのお裾分けよ」
 それは自分が言うべき言葉ではないだろうか。もらう側の人間が言うセリフではないような気がする。
「あきらめろ、レイ」
 シンの助言が的を射ていると感じる日が来るとは思わなかった。
「……そうだな」
 何よりも、これ以上疲れては試験が最悪な結果になるかもしれない。
「リクエストは受け付けないぞ」
 それよりは、早々に白旗を揚げた方がいい。そう判断をしてレイはそう言った。

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最遊釈厄伝