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 戦いはどちらが有利かわからない。それでも、時間が過ぎるほどにこちらが不利になるだろう。なんと言っても相手には恐怖心がないのだから。
 そんなことを考えながら弓を引く。
「……恐れるな!」
 遠くから輔の声が聞こえる。
「大丈夫だ。私たちには大神官様のご加護がある」
 すぐ側でアルスフィオ殿もこう叫んでいた。
「アンデットなら、どこかに核があるはず」
 僕は小声でそうつぶやく。宝石とか呪が刻まれた鏡とかだ。
 それを見つけ出して壊すことが出来れば多くのアンデットは動かなくなるはず。そう思ってよく相手を観察する。
 スケルトンやゾンビ、それにマミーは不規則な動きを繰り返していた。おそらく彼らには思考力はないのだろう。
「とりあえず数を減らすか」
 そんなことを考えながら矢に火をつける。そしてそれをマミーへ向けて放った。
 まっすぐにそれはマミー達の中心へと向かう。次の瞬間、体中に巻かれている包帯へと火が燃え移る。
「やったかな?」
 対岸にいるから味方に被害はない。それどころか火はゾンビへと燃え広がった。
「……においまでは想像していなかったな」
 まぁ、それでもあのものすごいにおいがなくなっただけでもよしとしよう。後はアルスフィオ殿に清めてもらえばいい。
「ですが……すごいですね」
「火はすべてのものを浄化する。そう言われていますから」
 強引に安らかな眠りからたたき起こされて、なおかつ望みもしない戦いにかり出された人々だ。せめて苦しむことなく天に昇ってほしい。そんなことを口にすればアルスフィオ殿は感心したような視線を向けてきた。
「それよりも、彼らのために祈ってくださいませんか?」
 神様に怒られることがないように、と続ける。
「そうですな。彼らは被害者でしょう」
 ならば正しい眠りにつけるように祈りを捧げても悪いことはない。アルスフィオ殿はそううなずく。
「ですが……」
「大丈夫です。少なくともあちらも片がつきそうですから」
 微笑みながら俺はそう告げる。
「それはいったい……」
 どういう意味なのか。アルスフィオ殿がこう問いかけてくる。それに僕は騎士団の方を指さした。
「輔がキれました」
 振り向いたアルスフィオ殿が目を丸くしている。それは当然だろう。輔が使っている剣が気がつけば身の丈以上の大きさになっているのだ。
「……なぜ……」
「あれはマジックアイテムなんだそうです。あいつが招喚されるのはこれで二度目だそうで……前の世界で手に入れたとか」
 何でも魔力を通せば大きさが自在に変えられるらしい。他にもあれこれ出来るそうだけど、それは今は言わなくてもいいだろう。
「……それはそれは……幸いと言ってよろしいものか」
「ですよね」
 そのおかげであれこれと助かっているけど、と心の中だけでつぶやく。
「ああ、終わりました」
 本当に一撃だった、と口にする。
「まぁ、スケルトンだからな」
 しかし、どうやって動いているのだろうか。そうつぶやいたときだ。目の前に新たなスケルトンとゾンビが現れる。
「やはり核をつぶさないとダメか」
 あそこの奥にあると思うんだけど、と僕はつぶやく。
 その瞬間だ。月の光をなにかが反射する。
「あれかな?」
 間違っていたときはそのときだ。そう考えて弓を引く。狙いをつけるとそのまま矢を放った。
 今度は火矢ではなく目立たないように先端を黒く塗った矢を使う。それで連中は気づくのが遅れたのだろう。矢は邪魔されることなくそれをうがつ。
 ビシッ!
 なにかが破壊される音ならぬ音が周囲に響く。
 同時にスケルトンとゾンビがその姿を失っていく。
 どうやらあれが核だったらしい。
「良かった……」
 どうやら足手まといにならずにすんだ。そうつぶやく。
「そうですな」
 アルスフィオ殿もこう言ってうなずいた。
「ここで降伏してくれればいいんだけど……」
 果たしてあちらが受け入れるだろうか。自分達が行かないと無理なような気がする。
「水希、すごいじゃないか!」
「偶然だよ。輔だってすごいじゃない。あの大きな剣」
「あのくらいはな……問題はあちらは諦めてくれるか、だ」
「無理じゃない?」
「だよなぁ」
 やっぱり話をしに行かなければいけないだろう。気は進まないが仕方がない。ため息交じりにそうつぶやいた。

 それからも何度かアンデットに襲われつつも僕らはあの日逃げ出した王城へと向かった。
 しかし、気になることがある。
「……ここまで村人と一人も会わないって言うのはおかしくないか?」
 隣にいる輔にそう問いかけた。
「確かに」
「……まさかとは思うんだけど……」
 あのゾンビを作るのに殺されたわけじゃないよね、と唇の動きだけで告げる。
「あいつはそんなことをやりそうな奴だったのか?」
 輔の問いに僕は首を横に振った。
「わからない」
 自分には何を犠牲にしてもほしいと思えるものがないから。逆に言えば、心の底からほしいと思っていれば人は何をしでかすかわからない、ともつぶやく。
「だよな」
 思い込むと人は何をしでかすかわからない。だが、それでも自分は人が嫌いになれないのだ。輔はそう言う。それには僕も賛成だ。
「それでも……この光景は異常だ……あいつは死の王にでもなるつもりか?」
 村人どころか虫一匹いないだろう、と輔は言う。そう言われて初めてその事実に気づいた。
「……魔方陣にすべての力を吸い取られたと言う可能性は?」
「国民からか?」
「この国の貴族はあの時にすべて死んでいルカ、あるいは身分を返上している。そう考えれば、あり得るんじゃないかな」
「なるほど。契約の相手を国としたか」
 だが、平民は魔力が少ない。それをすべて吸い取られて死んだのではないか。そう続けた。
「彼らは自分達が魔力を持っていたとは知らないからね。気がつかないうちに命を落としたと」
「それをアンデットにしたか」
「多分だけどね」
 あくまでも想像でしかない。それも、あちらのラノベの知識だ。こちらに当てはまるものだろうか。+ 「何にせよ、城に行くことは決定だな」
 これを終わらせるにはあそこに行くしかない。そして、魔方陣を破壊しなければいけないだろう。
「帰れなくなったら?」
「大丈夫。最後の手段を使うから」
 そう言って彼は笑った。

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