21


 気になっていた大叔父のことを確認するためにもう一度図書館へ向かう。
「……これにもない」
 大神殿の記録にないと言うことは、彼はまだ死んだわけではないと言うことだ。
 記録的には《神隠し》。  つまり行方不明になったまま生死不明と言うことだ。
 しかし、だ。
 大叔父はこちら側の世界に戻ってきているはず。それなのにどうして、と思う。
 他にもいくつか気になることがある。
「あと少しですべてが繋がりそうなんだけど……」
 何かが足りない。それがわからない以上、うかつな行動をとるわけにはいかないのだ。
「ともかく、ここではこれ以上わからないな」
 誰かに聞けばいいのだろうが、知っていそうな相手がいない。
 その事実にため息を一つつく。
「とりあえず輔に相談してから考えよう」
 何が解決するとは思わないが、誰かに話している間にいい考えが浮かぶかもしれないから。そう考えると手にしていた本を書架に戻す。
 問題はあちらが終わっているかどうかだろう。
「人を追い出してまで話し合ったと言うことは内緒にしたいんだろうけど……」
 後で聞かせてもらうから意味がないと思うんだが、とつぶやく。それとも、聞かせたくなかったのはその話し合いの経過なのだろうか。
「可能性としては否定できないけど……」
 どうしてそうするのか。その理由が今ひとつわからない。
「やっぱり聞くしかないよね」
 ため息とともにそうつぶやく。そのまま廊下に出るために歩き出す。
「終わったか?」
 だが、それよりも早く彼が顔を見せた。
「ちょうど良かった。聞きたいことと相談したいことがあるんだけど」
「俺の方も、報告と相談があるんだが……」
「なら、ちょうどいいから聞かせて? その間に考えをまとめるから」
 とりあえずそう言ってみる。
「……そうだな」
 そう言うと彼は話し合いの内容を教えてくれた。要するに、僕たちを連れてあちらに話し合いに行くことになったと言うことだ。もちろん、護衛という名の軍を引き連れて、だ。
「だから、とりあえず安全かな、と……」
「……少しもそう思ってないでしょう?」
「まぁな」
 どう考えても僕たちはあちらをつる《えさ》だよね、とうなずき合う。
「で、お前の方の話は?」
 その言葉に僕はのどをしめらせるように小さく唾を飲む。
「ちょっと思い出したことがあってね。調べてみたんだけど……」
 こう前置きをして大叔父のことを話す。
「……確かに戻ってきたのか?」
「少なくとも、国の記録にはそう残っている」
 問題はその後だ、と僕は続ける。
「でも、死亡の日付が載っていない。こちらの名簿にもなかった」
 そんな中途半端な状態はおかしいのではないか。
「それに……彼が戻ったときに身につけていた衣服は見たことがある」
 それは、と僕は記憶を探った。
「……第二次世界大戦中の人が来ていた服に似ていた」
「ひいじいさんがいなくなったのはそのくらいの時期だな」
 そこまで口にしたところで輔は僕を見つめてくる。
「お前……」
「可能性は否定できないでしょう?」 「確かにそうだが……」
 いや、と彼はつぶやく。
「そうすればすべてのつじつまは合うか」
「厄介だけどね」
「……あぁ」
 つまり、輔にも王家の血が流れていると言うことだ。それならばあの魔力量も納得できる。今の僕は魂以外はあちらの存在だからそれほど魔法量はないはず。
「でも、そいつが元凶だというのなら……適切に対処しないとな」
 たとえそうだったとしても、と彼はつぶやく。
「今更理を代えられても困る」
「……そうだね」
 王族を殺したのは僕も含めた者達だ。そうである以上、あの魔方陣も消し去るべきだったのに。それを惜しんで人を人身御供のように使っているのは許されない。
 だから、とため息をつく。
「戻るためにも一度あの国に行かないといけないね」
 その結果、どのようなことが起きようともだ。
「そうだ」
 きっぱりという彼に僕もうなずいて見せた。

 とりあえずここから数人の騎士を先行させるらしい。口実は賊について確認するため、と言うことだ。他の国にも同じように派遣するから問題はないだろう。
 あるとすればその後のことかもしれない。
「問題は、あちらがどんな条件をつけるかだけど……」
「十中八九、俺たちの引き渡しだろうな」
 それにこちらが応じるかどうかは別問題だろうが、と彼はため息をつく。
「それで戦いになる可能性はある」
 もっとも、と彼は続けた。
「それが狙いのようだが」
「……また民間人に犠牲が出るね」
 ため息とともに僕はそうつぶやく。
 戦いになればいやでも彼らは動員される。そして、真っ先に死んでいくのも彼らだ。
 それが悲しい。
「……そこまで考えていなかったな」
 彼もそう告げる。
「となると……少し作戦を変えた方がいいのか?」
 そのあたりも相談だな、とため息をつく。
「そうしてくれるとうれしいかも」
 一人でも多くの民間人の命が助かるのであれば、と言葉を返す。それが偽善だったとしても、だ。
「了解」
 彼はそう言って笑った。

「あと少しだ」
 小声で彼はそうつぶやく。
「あと少しで我らは欲しいものを手に入れる」
 そうしたらこの世界は必要ない。派手に壊してくれよう。彼はそう言って笑う。
「我の幸せを壊した世界など、消えてなくなればいい」
 彼の怨嗟が風に乗って流れていった。

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