18


「なぜ言い切れるんだよ!」
「あなた方、と言うより貴方があの方の魂を受け継いでいるからです」
 さらりとエルスガート様が口にする。
「……はぁ?」
 意味がわからないと輔は不審げな表情を作った。しかし、僕にはその理由がわかる。
「僕たちのどちらかが、その王族の生まれ変わりなのですか?」
 本当はその答えを知っていた。でも、知らない振りをして僕はエルスガート様に問いかける。
「……残念ですが……」
 自分達には判別がつかない。彼はそう答えを返してくる。
「もっとも、知る方法はありますよ? 魔道具を使うのです」
 知りたいですか、と彼は言葉を重ねた。
「……知っておいた方がいいのであれば」
 知らなくても自分達は困らない、と輔は言外に付け加える。
 この言葉は予想していなかったのか。エルスガート様は一瞬言葉に詰まったようだ。
「そうですね……」
 だが、すぐに考え込むような表情を作る。
「わたくしたちとしては知っていた方がいいでしょう。いざというときのために」
 そして言葉を濁しつつ彼はこう告げた。
「……それでいいんじゃね?」
 視線を僕に向けながら輔がこう言ってくる。その瞳の奥に面白そうな光があったことを僕は見逃さなかった。
「そうだね」
 本当に彼は、と思いつつも僕もうなずく。
 もちろん、それが茶番でしかないとわかっていてもだ。
「では、準備がありますので午後からでかまいませんか?」
「もちろんです。ですが、よろしいのですか?」
 忙しいのではないか、と言外に問いかける。
「かまいません。わたくしが立ち会えないときにはアルスフィオ殿にお願いしますから」
 彼ならば信頼できるだろう? と問いかけられて輔がうなずく。
「では、そのように」
 エルスガート様はそばにいた者を振り返るとそう命じる。それにそば仕えの神官はうなずいて見せた。

「……午後までまた暇になったな」
 さて、どうする? と輔が問いかけてくる。
「図書室にでも行く?」
「文字がわかるかな?」
「それこそお約束じゃないの?」
「まぁ、言葉も不自由していないしな」
 そろそろ活字が恋しい。彼の言葉に僕もうなずく。
「じゃ、行こうよ」
「そうだな」
 暇つぶしにはちょうどいい。彼はそう言って笑う。
「調べたいことも出来たし」
「そうなの?」
 確かにエルスガート様の言葉で新たな疑問が生まれた。僕自身知らないことが出てきたし、とうなずく。
「本に書いてあるとは思えないけどな」
 自分達にとって都合が悪いことならば隠そうとするに決まっている。
「行間を読むしかないのかな」
 面倒くさいけど、と僕はつぶやく。
「それも楽しいんだけどな」
 違うのか、と彼は聞き返してきた。
「ラノベならね」
 歴史書は面倒くさい、と正直に告げる。
「まぁ……そうかもな」
 確かにあれは面倒くさいと彼もうなずく。
「歌集なんて楽しめればいいのにねぇ」
 先日、古典の教師から聞いた話を引き合いに出してこう言う。
「まぁ、あの時代だからな。かなり鬱憤がたまってたんだろうよ」
「貴族って大変だよね」
「否定できない。まぁ、する気にもなれないが」
 いい加減立ち話もなんだから、と僕たちは移動を開始する。途中で神官さんに会ったから『図書室に行きたい』と言ってみた。民衆にも開かれているそうだから使うのはかまわないと場所を教えてもらった。
「さすがだね」
「あぁ。こういう所ばかりだと楽なんだけどな」
「……貴族の領地とか?」
 異世界ものの定番だよね、と苦笑を浮かべながら口にする。
「まったく……知識を囲い込んでも誰かがそれ以上のものを作ると言うのにな」
 静かだが思い声音で輔がそう言った。
「……見てきたようだね」
「まぁ、な」
 それ以上は言わない。と言うより言えないのだろう。ここでは誰が効いているかわからないのだ。
「どちらにしても、あそこをなんとかしないと帰るに帰れそうにないしね」
「全くだ」
 そう言いながら僕たちは図書室へ向かった。

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