16


 一度、小さな襲撃はあった。しかし、前回のことで奮起していた騎士団にあっさりと退けられた。
 そうして、僕たちは今、大神殿の建物の中にいる。
「明日、朝食後に大神官様にお目にかかれるよう話が通っている」
 アルスフィオ殿がそう告げた。
「わかりました」
 確かにこの混乱の中で謁見をしても落ち着かないだろう。聞きたいことも聞けないのではないか。それよりは少しでも落ち着いてからの方がいいだろう。
 そう考えて僕はうなずく。
「輔もそれでいいよね?」
「あぁ。俺も頭の中を整理したいからな」
 彼もこう言って同意をしてくれる。
「では、部屋に案内させましょう」
 言葉とともに一人の見習が近づいてきた。そしてアルスフィオ殿に向かって礼をする。
「すまないが彼らを客間に案内してくれ」
「はい」
 彼の言葉に見習いはうなずく。
「では、時間がありましたらまたお目にかかりましょう。あなた方との時間は有意義でした」
 それを見てアルスフィオ殿は微笑みながらこう告げた。
「いえ。僕たちの方もいろいろと教えていただいて、本当にありがとうございます」
 言葉とともに頭を下げれば彼は笑みを深める。
「では」
 こちらに、と見習いが口を開く。僕らはその後について歩き出す。
「また明日、お会いしましょう」
 僕らの背中に向かってアルスフィオ殿がそう言った。

 部屋は予想以上に立派だった。
「本当に使っていいのかなぁ」
 たぶん王族か高位貴族が使う部屋だと思うんだけど、と続ける。
「案内してくれたんだからかまわないとは思うが……」
 輔も微妙に腰が引けていた。
「それよりも、俺としては明日の話し合いの方が気にかかる」
「……強引な話題そらしだね」
「仕方ないだろう。俺だって想像がつかない」
 ここまで優遇される理由が、と彼は言外に付け加えた。もちろん、僕だってわからない。
「魔法が関わっているのかも」
 一番最初に思いついた考えを口にする。
「あぁ……そうかもな」
 どうやらこの世界では使えないことになっているらしいし、と彼はつぶやく。
「お前も存在を知らなかったしな」
「知らなかったよ」
 でも、と僕は続ける。
「昔話にはそれらしい記述があったかな?」
 すべて神様とその眷属の仕業と言うことになっていたが、と告げた。
「それに疑問も持たなかったよ」
 あの頃の自分は、と続ける。それが普通だったから、と言えば彼はうなずいて見せた。
「それだけ教団の隠蔽は優れていた、と言うことだな」
 あるいは影響力か。それでも完全になかったことにしなかったのは魔法を使える人間が存在するかもしれないという可能性を鑑みてのことだろう。
 彼はあっさりとそう続ける。
「まぁ、魔法自体『神様の力』と言われても納得できるんだけど」
 自分ですらそう思うのだから他の人間ならなおさらだろう。僕はそう言った。
「今は?」
「微妙だよね」
「だよな」
 本当にこの世界は怖い。でも、うちの父親もなかなかだよな……と考えたときだ。いやなことを連想してしまう。これは輔も巻き込んでしまった方がいい。
「……それよりも怖いことを思いついちゃった」
 そう考えて僕は言葉を口にする。
「なんだ?」
「今回のこと、うちの親が知ったらどうなるかな、と」
 そういった瞬間、輔も表情をこわばらせた。
「なんとかの一念で追いかけてきそうだな」
「だけですめばいいけど……」
 原因をつぶそうとするのではないか。
「……俺たちが手を出す前にあいつらが終わるな」
 彼も同じ結論に達したのだろう。ため息とともにそう告げる。
「ともかく、だ。明日のために休むぞ」
「そうだね」
 とりあえず先ほどの考えを払拭したい。そうつぶやくと僕はベッドの上に体を横たえた。

 いったい水希はどこに行ったのか。
 もう半月近くたつのに手がかり一つ見つけられない。
「……大丈夫ですよ」
 輔の父がそう声をかけてくる。
「ですが……」
「間違いなくうちの息子も一緒でしょう。それならばどこからでも戻ってきます」
 たとえ異世界であろうとも、と彼は続けた。
「水希君が一緒ならなおさらですよ」
 奥さんもそう言ってくる。
「だといいのですが……」
 本当にどこに行ってしまったのだろう。そう考えるとため息が出る。

 二人のセリフが嘘でも何でもないとわかったのは、すべてが終わったときだった。

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