星々の輝きを君に

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  01  



 オーブからの民間使節団。それが来るのは勝手だ。しかし、何故、自分まで借り出されるのか。
「ナチュラルのためなんかに」
 オーブに住んでいる彼らが自分たちコーディネイターに変な偏見を持っていないことは知っている。それでも、こう思わずにいられないのだ。
「何だ? お前も借り出されたのか?」
 そんなことを考えていれば、聞き覚えのある声が耳に届く。
「貴様か、ディアッカ」
 自分と同じように最高評議会議員を親に持ち、しかも年齢も一緒だと言うことで腐れ縁的な相手を認めてイザークはため息をついた。
「まぁ、お前のことだ。エザリアさんに言われて渋々と言ったところか?」
 からかうような声音で彼はそう言ってくる。
 わかって入りなら、聞くな……とイザークは言いたい。第一、あの母に面と向かって逆らえる人間がどれだけいるのか。ディアッカだって、無理ではないか。
 といいつつ、ディアッカはどこかうきうきとしているようにも見える。
 ひょっとして、女の子ならナチュラルでもいいのか……と思わずにいられない。
「そう言うお前は嬉しそうだな」
 だから、ついついこう言い返してしまった。
「今回、使節団の中に従姉妹がいるんだよ。一つ年下の可愛い子でな」
 しかし、彼の口から出たのは予想していたのと違うセリフだ。
「従姉妹?」
「そう。第一世代だから、こっちには住めないんだけどな」
 残念だけど、と付け加えた理由は理解できた。
 自分たちより年下と言うことは、まだ十歳にもなっていないということだ。そして、プラントは現在、ナチュラルの居住を制限している。本来であれば、ナチュラルの入国すらも制限したいと思っているのではないか。
 しかし、まだ、友好関係にある国の、しかも子供達の交流を疎外することはいけない。
 ひょっとしたら、子供達の交流の中から未来への道筋が見いだせるかもしれない。そんな可能性があればなおさらだ。
 だから、こうして民間使節団の交流が続けられているのだ。その中に、ディアッカの従姉妹がいるというのか。
 イザークの中でようやく彼らへの興味がわいてくる。
「しかし、俺たちと同年代で第一世代?」
 オーブでも既に第二世代が主流になりつつあるのではないか、と言外に問いかけた。
「そのあたりのことはつっこむなって」
 色々な理由があるのだ、とディアッカが言い返してくる。
 あるいは、問題があるのはその子の両親の方かもしれない。普通であれば子供を持つことが出来ないか、あるいは生まれてきても長らえられないというケースもあるらしい。それを阻止するためにコーディネイトした事例もある、と聞いたこともあるのだ。
「わかった」
 どちらにしろ、タッドが絡んでいるのは間違いない。ならば、自分があれこれ言う必要はないだろう。
「出てきたな」
 代わりにこういった。
「さて、どこにいるか」
 公私混同をさせて貰ったから、彼女が家に来るのはわかっているんだが……とディアッカは呟く。
 そのまま視線を彷徨わせていた彼の動きが不意に止まった。
「そうだよな。いくら滞在先が家とはいえ、あの人達があの子を一人で寄越すはずがなかった」
 絶対、誰かが付いてくるとは思っていたが、引率にあの二人の名前がなかったから安心していたのに、と彼はため息をつく。
「そうだよな。一緒に来られる年齢の人がいたんだよな」
 ということは計画がパーか、と彼は付け加えた。
「ディアッカ?」
 何を言っている? とイザークは問いかける。
「あの子の兄貴分が一緒にきているんだよ。やっぱり、第一世代なんだけどさ……はっきり言って、俺じゃ手も足も出ないくらい強い」
 相手の方が二歳年上と言うだけではない。第一世代には時々信じられないほど優秀な人材が生まれることがあるが、彼もそのうちの一人ではないか。
「まぁ、あの子もそうだけどな」
 だからこそ、できればプラントに呼び寄せたいのだ。タッドがそう言っていたのだ、と彼は続ける。
「でも、ご両親から引き離すのもな。おじさまもおばさまもすげぇいい人なんだよ」
 ナチュラルだろうと尊敬できる人がいると思わせてくれた相手だ、というディアッカの言葉が信じられない。身内のひいき目ではないか、と思うのだ。
 だが、それを彼に言わない方がいいだろう。
 その位の分別は自分だって持っている、とイザークが心の中で呟いたときだ。
「ディ!」
 彼らの耳に柔らかな声が届く。
「ここだ、キラ! それに、カナードさんも」
 即座にディアッカが言葉を返す。彼の視線の方向へとイザークもまた顔を向けた。そうすれば、こちらに駆けてくる小さな人影と、その背中を守るように歩いてくる人影が確認できる。
「久しぶり、ディ」
 小さな方の人影が彼の腕の中に飛び込む。それをしっかりと抱き留めているディアッカが憎たらしい、と思える。
「元気そうだな、キラ」
 そう言っている彼を殴りつけなかった自分をほめてやりたい。そう考えるイザークだった。

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最遊釈厄伝