一番厄介な相手を味方につけた、と言う事実がディアッカに安心感を与えていた。 その気持ちのまま、彼はバルトフェルドの元へと向かう。 「何の用だい?」 自分を嫌悪している……とまでは言わないが、できるだけ顔を合わせたくないと思っているらしい相手の訪問に、彼は面白そうな表情を作った。 「一応、許可をいただいておこうかと思いまして」 勝手にやってもかまわないのかもしれないが、とディアッカは口にする。 「内容を聞かせて貰おうか」 何を言い出すのか興味津々、と言う表情でバルトフェルドは言葉を返してきた。 「キラのことで確認したいことがありますので、次回の戦闘の時にストライクのパイロットに通信を入れさせていただこうかと」 その瞬間、彼の視線が厳しくなる。 「彼が……どうした、と言うのかな?」 彼の表情から、アイシャ経由で何かの情報が彼の元へ届いているのではないか、とディアッカは思う。 「あくまでも私の推測ですが、あるいは地球降下前にストライクのパイロットであることを強要されていたのではないか、と思いまして」 本人に問いかけて追いつめるよりは、連中の反応を確認した方が早いだろうと思ったのだ、とディアッカは付け加える。 「……それを知って、どうするのかな?」 「どうもしません。少なくとも、今のあいつの状況を見れば責められないことはわかっていますから。ただ、真実を知らないことで何かあった場合、対処できないだろうと判断しただけです」 キラを拾ってきた責任は自分にあるだろう、とディアッカは言い切った。それに、あいつを放っておけないから、とも。 「なるほど……そう言うことであれば許可をしよう」 ただし、それに関しては手伝わないぞ、と彼は念を押してくる。 「かまいません。自分たちの機体は元々向こうのものですから。通信も可能です」 実際に試したことはないが、十分通信は可能なはずだ。こんな事でもなければ試す気はなかったが、とディアッカは心の中で苦笑を浮かべる。 そんなディアッカの内心がわかったのだろうか。 「結果はちゃんと報告するようにな」 自分だけではなくアイシャにも……とバルトフェルドが笑いながら言葉を口にした。 「アイシャさんですか」 はっきり言って、彼女は苦手だ。美人だとは思うし、目の保養だとは思うが、積極的に関わりたくないと思ってしまう。 自分でさえこうなんだから、イザークにいたっては自分の視界に入ってこないようにと気配を感じただけで逃げ出しているという噂も真実みを帯びてくるというものだ。 「彼女もあの子のことを気にしているからね」 諦めるのだな、とバルトフェルドが笑った。でないと厄介なことになるぞ、と言われては頷かないわけにはいかないだろう。 「……あぁ、そうだ。足つきの居場所がわかったよ。明日にはしかける用意だ」 準備をしておけ、とバルトフェルドがいきなりこんなセリフを口にする。 「わかりました」 そう言う話は先に言えよ……と心の中で毒づきながらも、ディアッカは誰にも文句を言われない見事な敬礼をしたのだった。 同じ室内にアイシャがいる。 と言っても、呟きぐらい程度は彼女の耳には届かないだろうと思われる。だが、キラが迂闊な行動を取れば彼女には直ぐわかってしまう。だから、キラには迂闊なことができない。せいぜい、窓から空を見つめながら、考え事をするくらいが関の山だ。 こうなれば思い浮かぶのは、自分が振り捨ててきたはずの彼らのことだ。 みんなは無事だろうか、とキラは思う。 自分の体の不調に気づいてからすぐに、できるだけのことはしてきたつもりだ。だが、万全と言えるだろうか。自分がいればあれこれ直ぐに修正ができるだろう。そのためのプログラムは組んで来た、とは言え、完璧だと言い切れない。細かいところはその場で修正をしなければいけないはずだ。 そう思うと不安でしかない。 だが、戦えない自分があそこにいてもお荷物でしかないことは事実。 宇宙にいた頃よりも補給は楽になっているとは言え、戦えない自分があそこにいることはできなかった。 最初のうちは同情から優しくしてもらえるだろう。 だが、それがやがて彼らにとって重荷になるはずだ。 せめて、もう少し目が見えていれば……と思わずにはいられないのは事実だ。どうして自分だけ、と言う思いもある。 だが、自分がこうなった理由もキラは薄々検討がついていた。そして、誰が行ったかも。 だから、誰かを恨むつもりはない。自分に非がない、逆恨みだとわかっていてもだ。 全ては自分の力不足が招いたことだから……と。 「……君は馬鹿だって言うかもしれないね……」 アスラン、とキラは呟く。でも、後悔する気はないのだ。 彼に助けられた事だけは予定外だったが。 「これからどうしたらいいのかな」 自分がここにいてはいけないことはわかっている。 だが、今のキラは一人ではどこにも行くことはできない。例えここから出たとしてもすぐに見つかってしまう。実際、何度も抜け出しては見たものの、敷地内から出る前に誰かに発見されてしまっていた。そのたびに呼び出されるのは、アイシャか彼だ。 自分のことでこれ以上彼らの手を煩わせるのは気が引ける。 いくら、相手が《ザフト》の人間だ、としてもだ。 そう考えてしまうから、自分は結局どちらからも『裏切り者』と呼ばれることになってしまったのだろうか。 「……どうして、戦争なんてするんだろうな……」 戦争さえ起きなければ、ヘリオポリスはまだ存在していたはず。そして、自分たちの間に亀裂が生じることはなかったのではないか。そんなことすらも思ってしまう。 「静かに暮らしていたかっただけなのに」 それ以前に、まだ月にいられたのかもしれない。 「それはみんな同じでしょ」 好きで戦争をしている人間なんていないわ……と背後からアイシャの声が届く。 「あ……あの……」 一体どこから聞かれていたのだろうか、とキラは焦る。だが、それを問いかけるわけにはいかないだろう。 「ぼーっとしているだけじゃ暇でしょ? お茶にしましょう?」 付き合ってくれるわよね? とアイシャは微笑む。もっとも、そうなのだろうとキラが思っているだけなのだが。 「それからお薬を飲まないとね。もう少し治療をしないと、眼鏡も作れないでしょう?」 この言葉に、キラは小首をかしげる。 「別に……僕は……」 今のままでも困らない、とキラは付け加える。第一、いつまでもここにいるつもりはないのだから。彼女さえいなければ、ここを抜け出して……とも思うのだ。 「私達が嫌なの。あの子達と同じ年代だって言うのに、全てを諦めてしまっているあなたの存在がね」 だから、いろいろと楽しいことを教えてあげるだけよ……といいながらアイシャが顔を寄せてきた。そうすれば、今のキラにもはっきりと彼女の表情が見える。 「と言うわけで、お茶にしましょ。今日は特別のケーキなの」 楽しげな表情のまま、アイシャは無理矢理キラを立ち上がらせた。そして、隣の部屋へと引っ張っていく。 それが、言葉通りの意味以外も含んでいたことにキラは気づかない。 キラの背後で窓の外を、バクゥを始めとするMSが通り過ぎていった…… |