一体、どうやって彼らに切り出すか…… ディアッカがそのことを悩んでいたときだった。 「死に損ないはどうしてる?」 シャワーを浴びてきたのだろう。髪から水滴をしたたらせながら戻ってきたイザークがこいう問いかけてくる。 「死に損ない?キラの事か。変わらねぇよ」 お前も見ていただろうが、と言ったのは、先ほどの行動に対するイヤミだ。それがわかったのだろう。イザークは口元にいつもの冷笑を浮かべる。だが、それは直ぐに消えた。 「あいつはどうして」 また何かあったのだろうか。 それとも、先ほど見た光景からか。 どちらにしてもイザークにしては珍しいことだとディアッカは思う。あるいは、あれだけ追いつめられたキラにほんのわずかとは言え好意らしきものを抱き始めているのか。 「これはあくまでも俺の推測だが、あいつがあれのパイロットだったかも知れないぞ」 そんなイザークにこの話をしてもいいのだろうか、と思いながらも、ディアッカは言葉を口にした。 「なっ」 さすがに、このセリフには驚いたらしい。イザークは言葉を失っている。 「そう考えればあれこれ納得できる。あいつの体のことも含めてな」 そして、あれだけ追いつめられているという理由も……とディアッカは言外に付け加えた。 「薬を使われていたのは……ストライクにあいつを乗せるためだった、と言うわけか?」 ただ、ナチュラル用の薬がコーディネイターにも効くとは限らない。だから、量を誤ったか、あるいは、本人に気づかせないようにするためだったか。どちらにしても、キラ本人の意思ではないだろう、とディアッカは思っている。そして、それはイザークも同じ考えだったらしい。 「あるいはほかの要因か。ヘリオポリスは、オーブ所属だったろ」 そして、足つきはヘリオポリスで建造されていた。 あの崩壊の時に、何かのアクシデントがあって、足つきにキラ達が乗り込むはめになったとしてもおかしくはないのでは。ディアッカはこう付け加える。 「そして、親か知人を人質に取られた、か」 彼らの安全と引き替えに、ナチュラルでは操縦が難しいMSにキラが乗せられた。あるいは、そのOSの作成を強要されていたかもしれない。 「ほら……最初にデュエルが破壊されたときと、二度目の時……あの時もストライクの動きが違っていなかったか? 単にパイロットの熟練度が上がってきただかか……とも思っていたんだが……」 実は、その時から薬を使われていたのならば、あの変わりようも納得できる。 「なるほどな……だが一体何故……」 人質がいたのであれば必要ないだろう……とイザークが言う。 「ほら……そのちょっと前にラクス・クライン嬢が行方不明になっただろう?」 覚えているか? とディアッカはイザークに問いかけた。 「あぁ。確かアスランが彼女を保護して……」 本国に無事に送り届けられたはずだが、それがどうかしたのか、とイザークは逆に聞き返してきた。 「あの時、あの近辺に足つきもいた。もし、ラクス嬢が足つきに捕らわれていたのだとしたら……そして、彼女を足つきから逃がしたのがあいつなら、どうだ?」 おそらく、同胞である彼女を助けたかったのだろう。ナチュラルによって同胞と戦う事を強制されていたのだから、せめて……そう考えたのではないか。 ディアッカはそう推測していた。 「それが、連中の怒りを買った、と言うわけか」 ラクスの存在があれば、間違いなく足つきは無事に第8艦隊と合流を果たしていただろう。それを邪魔したとなれば、確かに怒りを買ったとしてもおかしくはない。むしろ当然ではないのか。 「で、そのせいで視力に異常を来し使い物にならなくなったから、放り出された……と言うところかもしれないぜ」 ナチュラル――地球連合軍であればそのくらいはするだろう、とディアッカは結論付けた。 「それもこれも、全ては俺たちがヘリオポリスを急襲したせいだ、とあいつが思っていても不思議じゃないよな?」 もっとも、キラが何も口にしていない以上、あくまでも自分の推測でしかないが、とディアッカは付け加える。 「……いや……可能性としては十分にあり得るな……」 イザークもどうやら納得したらしい。 「あいつらのことだ。あいつを放り出すときに『恨むならコーディネイターだった自分を恨め』ぐらい言いそうだしな」 散々利用しておいて、とイザークは顔をしかめる。 「で……お前としてはこれからどうする気よ?」 ストライクのパイロットにやたらとこだわっていただろう? とディアッカが問いかけた。 「……もし、お前の推測が当たっていたなら、あいつ個人に対するあれこれは忘れてやるさ。悪いのはあいつじゃなさそうだし……ストライクはまだ、俺の目の前にいるからな」 それを叩けばいいだけのことだ、とイザークは言う。 「しかし、一体どうやって調べる気だ? あいつのことだ。お前と話をするとは思えないが?」 まして、内容が内容だ、と付け加えるイザークに対し、ディアッカはニヤリと笑って見せた。 「正面突破が駄目なら、搦め手でいくさ」 いくつか考えてあるのだ、と彼は付け加える。 「ほぉ……参考のために聞かせて貰おうか」 イザークがこう言いながら、自分のベッドへと体を投げ出すように腰を下ろした。 「歌姫にメールを出したんだよな、さっき。『キラ・ヤマトを保護している』とさ」 もし予想が当たっていれば、彼女からの返信が来るだろう……とディアッカは言い返す。 「まぁ、もっともあちらも忙しいだろうからな。もう一つ保険をかけておこうかとは思っているが」 まぁ、お前にも手伝ってもわらないといけないかもしれないが……とディアッカは意味ありげな視線をイザークへと向けた。 「保険?」 なんだ、それは……と予想通りイザークが聞き返してくる。 「それこそ、あちらさんに聞けばいいだけのことだろう?」 今のストライクのパイロットにな……とディアッカがわざとらしい笑みを作った。 「なんせ、予想が当たっていれば、あいつはストライクについて知り尽くしているだろうからな。あちらとしても慌てるに決まっている」 絶対、ぼろを出すに決まっているんだ。ディアッカがこう言えば、イザークも納得したというように頷いて見せた。 「連中の反応を見るのは楽しいだろうな」 ニヤリと笑うと、イザークは言葉を返してくる。 「だろう? と言っても、こっちは保険だがな。歌姫さんからメールが早々に返ってくれば確認はしなくていいんだ。もっとも、嫌がらせでやるって言うなら止めないが」 憂さ晴らしには丁度いいだろう、と。 「この傷の鬱憤を晴らすには丁度いい、と言うことにしておいてやるさ、とりあえず」 本人にはぶつけられないからな……とイザークは言う。 「で? それを知って、どうする気だ?」 「……それに関して、俺たちが知っている……と知れば、あいつはもう少し素直になるかと思っただけだ」 素直な反応を返してくれば可愛いだろうしな……とディアッカが口にした瞬間だ。イザークが反撃の糸口を見つけたというような表情になる。 「なんだ? 本気になったのか、お前」 また厄介な相手に……とせせら笑う相手を、ディアッカは睨み付けようとした。だが、直ぐにやめる。 「かもしれねぇな」 その代わりというようにこう告げれば、イザークも驚いたらしい。目を丸くしている。 「もっとも、まだ、ただの同情なのかどうか、自分でもわからないのが厄介な所なんだがさ」 それでも、間違いなく自分は『キラ』に惹かれているのだろう。少なくとも、こんな手間をかけてもかまわないと思うくらいには。 「……まぁ、頑張れ」 毒気を抜かれたらしいイザークが呟くようにこう告げた。 |