ディアッカ達が報告その他を終えてベッドに潜り込んだのは、もうじき日付が変わろうとしている頃だった。 そのまま、すぅっと眠りの中にはいるはずだった。 だが、直ぐにその眠りは破られる。何者かが彼らの部屋に入ってきたのだ。 とっさに身構えると、ディアッカは視線をそちらへ向ける。 「……キラ?」 その場にいたのは、隣の部屋で眠っているはずの相手だった。それを確認したところで、ディアッカは警戒を解く。 「何のようだ?」 どうやらイザークも起きていたらしい。彼に向かってこう問いかけている。だが、キラからの返事はない。 「キラ? どうしたんだ?」 ゆっくりと歩み寄ってくる彼に向かってディアッカは問いかける。 その問いかけに答えるかのようにキラの手がそうっと持ち上げられた。そして、そのままディアッカの頬に触れてくる。 「……キラ……」 その意図がわからなくて、ディアッカは彼の名を呼ぶ。 「……よかった……温かい……」 キラの唇からこんなセリフがこぼれ落ちた。 「寝ぼけているのか?」 それとも、昼間の出来事がキラの中にある何かの記憶を刺激したのかもしれない。守りたくても守れなかった存在があったと聞いたし……とディアッカは思う。 「大丈夫だ。ちゃんと生きているだろう、俺たちは」 言葉と共にディアッカはキラの体を引き寄せた。 「ほらな? ちゃんと心臓も動いているだろう?」 彼の耳を自分の胸へと押し当てながら囁いてやれば、キラは小さく頷いてみせる。 「……うん……動いている……」 安心したようにキラが呟く。その口調はどこか幼げだ。 「大丈夫だっていっただろうが」 ぽんぽんと背を叩いてやれば、キラはそのまま瞳を閉じる。 「……マジで寝ぼけてたのかよ、こいつは」 そのまま寝息を立て始めたキラに、ディアッカが苦笑を浮かべながら言葉を口にした。 「それだけショックだった、と言うことか」 イザークもようやく安心したとわかる口調で言葉を返してくる。 「なんだろうな」 と言うことは、本当に気をつけてやれなければならないと言うことだろう、とディアッカは心の中で呟く。表面上が大丈夫だから、と言って本当にそうだとは限らないのだ。今日だって、あのあと、キラは笑っていたのだから。 「こいつの心の傷がどれだけ深いのか、俺たちには想像するしかできないからな」 一番いいのは、戦争から遠ざけてやることだろう。 だが、地球上では不可能だと言っていい。 かといって、プラント本国にキラを連れていくことは、いくら自分たちとは言え難しいとしか言いようがない。 ここに置いておくのが一番いいのだろうが、ブルーコスモスやレジスタンスたちの存在が気にかかる。前者はともかく、後者に関しては何とでも出来そうな気もするし……とディアッカは心の中で付け加えた。 とは言っても、あくまでもバルトフェルドの考え方次第なのだろうが。 「それよりも、そいつ、どうするんだ?」 今更隣の部屋に連れて行くのは難しいだろう、とイザークが口にする。 「このまま俺のベッドで寝かせるさ。こいつの体格なら、気にならないって」 それよりもここで起こす方が問題かもしれない、とディアッカは思う。中途半端に覚醒をさせると精神状態が悪化するとも耳にしたことがあるのだ。 「お前がかまわないなら、俺が口を挟むことはないな」 任務に支障が出なければかまわない、と言うと、イザークはそのまま布団の中に潜り込んでいく。 「ただし、俺の目が覚めるようなことはするなよ?」 ふっと思いついた、と言うように、イザークがこんな言葉を投げつけてくる。 「……何が言いたいんだ、お前は……」 キラの体をベッドの上に引き上げながら、ディアッカが聞き返した。 「お前の理性、と言うものを俺は信用していないと言うだけだ」 そうすれば、からかうような口調で即座にこう返される。 「お前なぁ……」 ようやくイザークの言葉の意図がわかって、ディアッカは思わずため息をつく。 「いくら俺でも、寝ぼけている相手を襲う趣味はない。第一、お前の前でそんなことをするか」 人前でする趣味はない、と言いながら、ディアッカはキラの体に布団を掛けてやる。そして、自分もようやく横になった。 「それに、んな事でこいつを手に入れたら、あいつがうるさいだろうが」 キラを嫌がらせの道具にするつもりはない。むしろ、本気で手に入れたいからこそ、誰からも後ろ指さされないようにしなければならないのだ。 「……あれか……」 誰のことを言っているのかイザークにもわかったらしい。低い笑い声がディアッカの耳に届く。 「確かにな。あいつの性格ならぶつぶつというか」 「だろう? 本気だからこそ、文句を言われるのは気にいらん」 第一、キラに誤解をされたくない……とディアッカは正直に口にした。 「そうだな。これ以上、そいつを傷つけることだけは避けたいしな」 月の光の中で、キラの幼子のような寝顔がイザークにも見える。それは最初にあったときのことが嘘のように穏やかなものだ。だから、それを壊したくないと、彼も思っていのだろうとディアッカは推測をする。 「そう言うこと。ようやくここまで俺たちのことを考えてくれるようになったんだ。焦らなくていいだろうよ」 ゆっくりと距離を縮めていこう、とディアッカが口にすれば、 「俺たちじゃなくて、俺、だろう?」 くすりとイザークの笑い声が返ってきた。 「いや。俺たちでいいんだよ。ザフトに対する憎しみを薄めることができるってことだからな。もっとも、その中で俺が特別になりたいというのはまじだけどさ」 そう言いながら、ディアッカはキラの髪をそうっと撫でてやる。相変わらず手触りがいい、と思う。 「がんばるんだな。多少はフォローもしてやるさ」 そいつの笑みを見てみたいと俺も思うしな、とイザークが呟く。 「イザーク?」 お前……とディアッカは彼に声をかけた。だが、それ以上彼は言葉を返してこようとしない。照れているのか、それとも別の理由からなのかはわからないが、少なくとも本心からそう思っていることだけは長年のつき合いでわかる。 「……こいつが笑えば、可愛いだろうな」 その夢でも見るか……と口にしてディアッカは瞳を閉じた。 触れあったところからキラのぬくもりが伝わってくる。 それが、心地よい、と思っているうちに、ディアッカは眠りの中に落ちていった…… |