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 人類はさらなる能力を欲して『コーディネーター』を生み出した。
 だが、彼らの能力はそれを生み出した人々の想像を遙かに超えていて……
 同時に、それを手に入れられるものも限られていた。
 そのせいだろうか。
 いつしかコーディネーターとそれ以外の人々――ナチュラルの間には埋めがたい溝が生じてしまった。
 しかし、それがさらにエスカレートしていけばその先に待っているのは血で血を洗う戦いだけだろう。
 その先に待っているのは、さらなる深い憎しみだけ。
 さすがにそれだけは避けたいと思ったのだろう。
 地球に残ったナチュラルとプラントに移住したコーディネーターは中立を宣言しているオーブを仲介者とし、不可侵条約を締結した。
 お互いの間に生まれた溝。
 それを埋めるためには、お互いが『生きている人間』である事を認め合わなければいけない。しかし、大人達ではそれを難しいだろう。理性では納得できても、感情が付いていかないのだ。
 だが、次の世代にまでこの愚かな諍いを持ち越したくない。
 それが例え偽善だとはわかっていても……
 同じ惑星を母とする者たちなのだから。
 連合およびプラントが出した結論は、次世代をになう少年達の交流。
 彼らの間に共通の認識が出来れば、次第に溝は埋まっていくだろう。
 そして、二つの世界をつなぐ役目を求められたのは中立国オーブ。現代、この世界で唯一二つの種族が共存している国の人々だった……

 オーブ所属のプラント、ヘリオポリス。
 そのドックに純白の肌を持つ美しい船が納められていた。
「これが例の船なのかな?」
 それを横手に見ながら、少年が二人と少女が一人、指定された部屋へと向かって進んでいく。
「だと思います。あぁ、もうイザーク達は着いているようですね」
 そう言いながらニコルが指さした場所には、確かに見覚えがある人影が見えた。
「クルーゼ先生はいらっしゃらないようだな」
 その場にいたのは二人だけ。自分たちの引率をしてくれる予定の人の姿はない。その事実がアスランにほんの少しだけ気持ちを重くする。
「お待たせしてしまったのでしょうか」
 そんなアスランの気持ちを読みとったのだろうか。ラクスがどこか不安げに口にする。
「……気にしなくていいだろう。約束の時間まではまだある」
 時間前についた以上、彼らに文句を言ってくる権利はない、とアスランは言外に告げた。
「そうですね。早くついたのは彼らの勝手ですし」
 ニコルもそんなラクスの気持ちを和らげようとするかのように言葉を口にする。
「なら、よろしいのですけど……」
 ふわりと花が開くときのような穏やかな微笑みをラクスはその口元に浮かべた。その瞬間、アスランの中でその表情が別の人物のそれへとすり替わる。だが、ゆっくりと思い出に浸っている時間はなかった。
「遅いぞ、貴様ら!」
 銀髪をなびかせながら、イザークが三人へと視線を向けてくる。
「連邦の連中に文句を言われるような行動は慎め!」
 元々ナチュラルを好いていない彼は、今回のメンバーに選ばれたことを不満に思っているらしい。それでもこの場に姿を見せたのは、プラント内での自分の立場と、アスランに対する対抗心からだろう。
「……あちらはまだゲートを通っていないそうだが?」
 ゲートの職員に確認してきた、とアスランは言い返す。それを耳にした瞬間、イザークとディアッカが意味ありげに視線を交わした。
「じゃ、さっき上がっていった連中は?」
 二人組が船内に入っていったぞ、とディアッカが告げる。
「オーブの方ではありませんの? 一緒に行かれるのでしょう?」
 この船はオーブ所属であり、そのクルーの中心は彼らだ、とラクスが言外に付け加えた。
「……にしては……」
 自分たちと同じような年齢の二人組だったぞ、とイザークが口にする。
「あぁ」
 オーブから乗り込んでくるのはあくまでもクルーだけではなかったか、とディアッカも頷く。
「オーブにもコーディネーターはいるからな。俺たちと同じ年齢でも既にクルーに選ばれているものもいないとは限らない」
 そして、自分たちに対する配慮からナチュラルだけがクルーに選ばれているわけがないだろうとアスランは判断した。
「クルーゼ先生は? どちらに」
 その場の雰囲気を変えるかのようにニコルが問いかけの言葉を口にする。
「あぁ……あちらの引率の一人が先に来ているそうだからな。打ち合わせに行った」
「こちらのもう一人がまだだ、と言うわけだな」
 ひょっとして、一番最後に姿を現すのが奴か……とイザークがため息をついた。その理由を他のメンバーは聞かなくてもわかってしまう。
「やっぱり……ミゲルというのは無謀だったんじゃないのか?」
 信頼していないわけではない。だが、どこか信用できないこともまた事実なのだ、彼は。
「……否定できんな」
 珍しく意見の一致を見たアスランとイザークに、他の誰も反論が出来なかった。




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