「さっきのあれは、キラらしくないな……」 以前であれば、甘えるようにまとわりついてきたはずだ。それなのに、どうして今は……と思ってしまう。何か隔たりができてしまったようで面白くない、と考えてしまう。 もっとも、それを受け入れなければいけないのではないか、と考える自分がいることにもアスランは気付いている。 その時だ。 「何の問題もない」 離宮内を調べていたミゲル達がこう報告をしてくる。 「当たり前だろう」 オーブがアスランに何かをするはずがない。少なくとも、カガリとキラ、それにハルマがそれを許可するはずがないとアスランは信じていた。 それでも彼等の好きにさせていたのは、万が一の可能性を考えてのことである。城内の井戸に毒が投げ込まれていたという話は既に聞かされていたのだ。 「わかっているけどな。俺たちとしては万全の状況を作りたかった訳よ」 「……あの方も、それをわかっていらっしゃったのでしょうね」 不意にニコルがこう告げる。 「ニコル?」 彼が誰のことを言っているのか、アスランにも伝わってきた。しかし、どうして……とも思う。 「……カガリ様と婚約しているんだろう、お前は」 少しあきれたように口を開いたのはラスティだ。 「そのお前がいなくなれば、と考えているバカがいたとしてもおかしくはないだろう? そして、そんなバカに手を貸すものがいるのではないか。俺たちがそう考えることもあいつには予測済みだったんじゃないのか?」 性別がわからないと代名詞に困るな……と呟く彼にアスランは少しだけ笑みを浮かべる。 「ともかく、自分が一緒にいれば俺たちが遠慮をしてしまう。それがわかっていたからこそ、あの人は俺たちだけを残していったんじゃないのか?」 そういうところは王家の人間のたしなみなのか……と口にしたのはイザークだ。 「もっとも、それ以上に女神のご加護を一身に受けておいでのようだが」 だが、この言葉に引っかかりを覚えてしまう。 「イザーク?」 何故、そういいきれるのか。 もっとも、自分にしてみればカガリが女王になることと同じくらい、キラが神官になることは当然で、その理由までは興味を持っていなかったのだが。 「何だ? 知らなかったのか?」 イザークが少しあきれたよう呟きを漏らす。 「俺もわかんねぇんだけど」 「右に同じく」 しかし、ディアッカはもちろんミゲルにまで言われてはイザークとしても説明しないわけにはいかないらしい。 「あの方の瞳の色を覚えているだろうが」 ため息とともにイザークは口を開く。 「綺麗なすみれ色だな、キラは。カガリは琥珀だが」 それがどうかしたのか? とアスランは言い返す。 「女神の容姿に関しては記述が残っていない。唯一残っているのは瞳の色だけだが、そのくらいは知っているだろうな」 いくら、女神の存在を信じていない人間でも、最低限、おとぎ話として聞かされるだろうが……と彼は付け加える。 「確か……すみれ色……」 ぼそっと口にしたのはラスティだ。だが、それが全ての答えだったとしか言いようがない。 「そういうことだ」 女神と同じ色の瞳を持って生まれる人間はほとんどいないに等しい。それなのに、キラは同じと言ってかまわないような色を持っているだろう、とイザークは言い返す。 「同じ紫でも、こいつの場合はすみれ色とは言わないからな」 締めくくりとばかりに、彼はディアッカを指さす。 「……ものすごく納得した」 「どういう意味だよ、それは!」 自分の顔を見た後こう呟いたミゲルに、ディアッカが即座に噛みつく。 「お前の場合、神聖なんて言葉とほど遠い存在だからだよ」 むしろ俗物だろう? とミゲルが言い返す。それにはディアッカも返す言葉を見つけられないようだった。 「しかし、残念ですね」 ニコルがこう呟く。 「何が、だ?」 「あの方が神官でいらっしゃると言うことがですよ」 正確に言えば、まだ、見習いなんだがな……とアスランは心の中で呟く。 「いえ、違いますね。あの方が神官でよかったのかもしれません」 しかし、彼はすぐに言葉を翻す。 「……何で、だ?」 「あれだけの方です。オーブにいらっしゃるか、でなければプラントに来て頂ければこれ以上、心強い方はいらっしゃいません。ですが、万が一、他国に奪われるようなことになれば……」 どうなるかわからない、と彼は言葉を締めくくる。 「もっとも、イザークのご両親の例がありますからね。誰かが頑張ればいいのかもしれませんが」 立候補してもかまいませんか? と真顔で彼は口にした。 「それなら、俺だって」 即座にイザークを除いた他の者達も次々と立候補を始める。しかも、気が付けばキラを『妻』にするという話題で盛り上がっていた。そんな彼等に、イザークはあきれたようなため息をつく。 「イザーク?」 どうかしたのか、と思いながらアスランは問いかける。 「あの方が男性である可能性を考えていないあたり、ある意味見事だな」 どちらでもかまわないと言い切れるような相手でなければ、女神がお許しになるわけないだろう、と彼は言い切った。 「その前に、カガリに切って捨てられるな」 あぁ、そうなる前に、自分がしっかりと処分をさせてもらうが……とアスランは笑う。 「キラは俺にとっても大切な存在だからな。だから、俺が守る」 カガリとともに、と付け加える彼に、イザークは苦笑を返してきた。 |