カガリが自ら出陣をすると決めた、とキラの耳に入ったのは明朝には出撃をするというその夜のことだった。 男装に身を包んだ彼女の前にキラが慌てたように顔を出す。その顔からは完全に血の気が失せていた。 「君が行ってどうなるの?」 この言葉に、カガリは一瞬動きを止める。 「確かに、私が行ったところでどうなるとは言い切れない! だが、少なくとも兵士達の士気を高めることはできるだろう!」 何よりも自分は《女王》だ。だからといって、守られるだけの存在でいて胃はいけない。 それに、と彼女は付け加えた。 「アスランだけではなく、ラクスも来るんだ。それこそ、私が物陰に隠れているわけにはいかないだろうが」 この言葉に、キラは困ったように目を伏せる。だが、すぐに顔を上げるとカガリを見つめた。 「僕も、行くからね」 そして、きっぱりとした口調でこう告げる。 「キラ!」 それをさせたくなかったのに……とカガリは心の中で呟く。そもそも、キラの耳には入れさせないようにしていたのだ。それなのにどうして、とも思う。 「君が国を守るのが義務だ、というのなら……君を守るのが僕の義務だ」 たとえ、自分自身の命と引き替えにしたとしても。キラはしっかりとした口調でこう付け加える。 「……お前は……」 即座にカガリはキラを怒鳴りつけようとした。 そんなことをされて嬉しいと思う人間がどこにいるのか。まして、自分に残された家族は、もうキラだけしかいないのだ。 だから、キラにだけは安全な場所にいて欲しい。 そう思うのに、どうして……とカガリは唇を噛む。 「君だけじゃなく、アスラン達もいるなら、余計に、だ!」 自分だけ安全な場所にいられると思うのか……とキラは怒鳴り返す。 「その気持ちはわかるが、私が向かうのは戦場だぞ! たくさんの人間が死んだり傷ついたりする場所だ!」 それに耐えられるのか、と聞かれてキラは唇をかむ。 「わかっている。わかっているから、行くんじゃないか!」 だが、すぐにこう口にする。 せめて、死に逝く人々に心の平穏を与えて上げることはできるかもしれない。側にいることだけはできるのだし、とも。 「邪魔しても、行くからね!」 歩こうと何しようと……と言うキラに、カガリはそれ以上、反対ができなかった。目の前の存在が自分に負けず劣らず頑固だ、と言うことを彼女はよく知っている。そして、反対すればするほど、無茶をすることも、だ。 そのくらいであれば、自分たちの目の届く範囲内に置いておいた方が安全だろうか。そうも考える。その方が守るにも都合がいいだろう。 「……わかった……」 渋々といった様子で、カガリは言葉をはき出す。 「ただし、お前は絶対に誰かを傷つけるな! いいな」 これだけは譲れない一線だ。カガリはキラを真っ直ぐに見つめながらカガリは口にする。そのような状況になったら、無条件でオーブに帰す、とも付け加えた。 それに、キラは静かに頷いて見せる。 「わかっている。カガリには迷惑をかけないから」 そして、こうも口にした。 「……なら、支度をしてこい」 ため息とともにカガリはキラにこういう。 「できてる」 「……何?」 キラの言葉をカガリはすぐに飲み込めなかった。 「だから、もうできてる。必要最低限のものだけ持っていけばいいんでしょう?」 それならばまとめてあるから……とキラは開き直ったように付け加える。 「だからいったでしょう? ダメだって言われても、勝手に行くって」 準備を終わらせてからきたのだ、とさらに言葉を重ねてきた。 「……いいに来てくれただけマシ、と言うことか」 勝手に出て行かれては、護衛を付けるどころではない。それでは、最悪、オムニに掴まってしまう可能性だってあったのではないか。 「ともかく、私たちの命令には従って貰うぞ」 勝手な行動をするな……とカガリは念を押す。 「……善処する」 そうすればキラは視線を彷徨わせながらこう言った。 「キラ!」 「状況次第だよ。絶対に約束はできない」 カガリの命がかかっているような状況なら特に、と力をこめる。 「……キラ、お前」 その気持ちは嬉しいが、とは思う。だが、自分がキラの立場であれば同じように考えるかもしれない、と考えればしかたがないのかと思う。 ならば、そのような状況にならないようにさせるしかない。 カガリは心の中でそう思っていた。 「まぁ、そうなると思っていたけどな」 状況を聞いたアスランが苦笑とともにこう口にする。 「結局、カガリはキラに勝てないんだから」 さらに付け加えられた言葉にカガリも苦笑を返すしかできない。しかし、すぐに表情を引き締める。 「それでも、キラを危険にさらすわけにはいかない」 「わかっている。ラクスにも協力してもらうしかないだろうな」 キラを一人にしないように……とアスランも口にした。 「あぁ、そうだな」 こちらも、信頼できる者を側に付けさせよう。本陣で大人しくしていてくれればいいのだが、キラの性格であれば不可能だろうし……とカガリは心の中で呟く。 「近くにおいた方がいいかもしれないしな」 そんな彼女を慰めるように、アスランがこう言ってくれた。 |