オムニの王、アズラエルに関して、やはりウズミとパトリックは調べさせていたらしい。オーブにもその資料があった。
「……やはり、あの禁呪ですのね」
 ラクスは小さなため息とともに言葉をはき出す。
「ラクス?」
「知っているのか?」
 カガリとアスランが即座にこう問いかけてくる。
「知っております」
 不本意ですが……とラクスは付け加えた。同時に、どうして自分がこの可能性に気付かなかったのだろうかとほぞをかみたくなる。わかっていれば、もっと早くに対策が取れたのではないか。そうも思うのだ。
 もっとも、終わってしまったことを今更言ってもしかたがないだろう。
 冥界へと旅立っていった者達を引き戻す術はないのだ。
 ならば、これ以上被害が広がらないようにすることもまた、自分の役目だろう。
「私が学んだ禁呪の中に、人々の心を縛るものがあります。キラが看破したものよりも強力で、完全に己の傀儡にしてしまうものです」
 あまりに非道な術なので、それを打破する方法も既に見いだされている。ラクスはそうも付け加えた。
「ならば、それを……」
「すぐにでも行いたいのは山々です。しかし、あまりにも規模が大きすぎます」
 おそらく、全ての兵士が傀儡にされているのではないか。ラクスはそう考えていた。でなければ、先ほど耳にしたような常軌を逸したと言っていい戦いぶりは考えられない。
「ですから、ここに術を解除するよりも……それを行っている中心部分を封じてしまった方がいいでしょう」
 その場所さえわかればすぐにでも自分が直接手を下す……とラクスは口にする。
「調べられるか?」
 カガリがこの場にいる近衛の騎士に問いかけている。
「何とかいたします」
 それに、即座にこう言い返してきた。
「では、それを最優先に。それが解決次第……私もウズミ様の元へ向かう」
 きっぱりとした口調でカガリはこう言い切る。それは誰にとっても寝耳に水の話だ。
「カガリ!」
「カガリ様」
 彼女を諫めようとするかのように周囲から声が飛ぶ。
「黙れ! これ以上戦を引き延ばして民に苦労を強いる気か! もうじき、作付けの時期だろうが」
 一年ぐらいであれば、多少不自由をするが何とか持ちこたえられるかもしれない。だが、それでもいつまでも続くものではない。
 それに、プラントの民はどうするのか、と彼女はさらに言葉を重ねた。
「それくらいならば、私が出て一息に片を付けた方がいい!」
 それが一番民に負担を強いらない方法ではないのか、と彼女は怒鳴りつけるように口にする。
「だが、カガリ……それでは、こちらを直接狙われたらどうするんだ?」
 オーブはその周囲を高い山に囲まれている。だから、今まで直接攻撃を受けたことはない。しかし、不可能というわけではないのだぞ、とアスランが言い返す。
「だから、今、片を付けたいんじゃないか」
 今であれば、まだ山には雪がある。しかも、これからは雪崩の危険もあるからそう簡単には足を踏み入れられないだろう。しかしこれで雪がとけたらどうなるのか。カガリは言葉とともに周囲を見回す。
「……カガリ」
 そこまで、考えていたのか。ラクスは冷静な視線で彼女を見つめながらそう考える。
 アスランも、同じ気持ちらしい。
「カガリ、本気だな?」
 堅い口調で彼女に問いかけている。
「もちろんだ。確かに、みなに比べれば足手まといにしかならないような技量しかない。それでも、私が先陣を切るか切らないかで、みなの士気が違ってくるのであれな、私は行きたい」
 そして、そのことでこの戦が決着をする可能性が大きいのであればなおさらだ……とも彼女は続けた。
 その言葉に、誰もが感嘆の表情を浮かべている。しかし、アスランだけは違った。
「キラはどうする?」
 カガリがそのような危険な場所へ行く、と知ればキラもまた何か行動を起こすだろう。それでもいいのか、とアスランは続ける。
「キラは神官だ。戦場に連れ出せるわけがないだろう?」
 あのような場所に連れ出して、キラの心が壊れてしまっては意味がない。それよりも、神殿で女神に祈りを捧げて貰っていた方がいい……と彼女は続ける。
「……キラが、大人しく聞き入れるでしょうか」
 確かにその方がいいだろう、とはラクスも思う。しかし、それをキラが大人しく聞き入れてくれるかというと別問題ではないだろうか。
「……聞き入れて貰わなければいけない。戦場に、キラの居場所はないんだ」
 置いていくのも心配だが、連れて行く方がさらに不安だ。だから……とカガリは続ける。
「わかりました。貴方がそのおつもりなのであれば、私にこれ以上何もいう言葉はありません」
 きっと、キラは押し切るだろう。その時に、自分がフォローできるようにしておいた方がいいのではないか。ラクスはそう判断をしたのだ。
「すまない」
 そんな彼女の気持ちがわかっているのかいないのか。カガリは呟くようにこう口にする。
「負担をかけることになるかもしれないが、頼む」
 そして、アスランもまたこう言って頭を下げた。

 それからの動きは速かったと言っていい。
 オーブの兵だけではなくプラントや諸国、何よりも民衆が彼等のために動いてくれた。そのおかげで、アズラエルが術のために用意をした祭壇を見つけ出したのだ。
 それを耳にして、即座にラクスとアスランの騎士達が動いた。オーブの騎士でなかったのは、オムニの者達に気付かれないようにするためだ。しかし、その彼等ですらその場のあまりの陰惨な光景に、言葉を失ったと言っていい。
「これが……」
「……禁呪と呼ばれている理由です」
 ラクスはこう言うと、そのまま進んでいく。
「これの力を無効にします。そして、二度とこのようなことをできないように、この地を封印します」
 そして、彼女はこう宣言をした。


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