幼なじみの特権というのだろうか。
 それとも、カガリが癇癪を起こしたからなのか。
 アスランは到着をすると同時に、家族しか足を踏み入れられない双子の私室へと案内をされてきた。
「久しぶりだな」
 にやりと笑いながらカガリがこう声をかけてくる。
 その口調は、まちがいなく自分が知っている彼女のものだ。
 だが、その服装は……と思わず目を丸くしてしまう。
「失礼な奴だな。他の連中はきちんと見ほれたぞ」
 もっとも、今のところ自分のこの姿を目にすることができるのは本当に信頼できると判断した人間だけどな、と彼女――でいいのだろうか、とアスランは心の中で付け加える――は胸を張る。
「そこまでにしておいてあげてよ、カガリ」
 くすくすと涼やかな笑い声とともにキラが口を挟んできた。
 キラの服は、以前と似たようなものだ。もちろん、それにかけられている手間は今まで以上にこんでいるものではある。
「アスランはちょっと驚いただけだよね」
 もっとも、全体の雰囲気が変わらないから、アスランとしてはキラの方が接しやすい。
「あぁ。衣装一つでこれほど印象が変わるとは思わなかった……」
 それに、キラが自分に助け船を出してくれたことはわかる。だから、今度は素直に頷いて見せた。
「俺に負けないくらい雄々しかったカガリが、ここまで淑女らしく見えるとは思わなかっただけだ」
「それはほめているのか?」
 アスランのセリフに、カガリは即座に反論の言葉を口にする。
「ほめているつもりだが?」
 てっきり、男だと思っていたからな……と彼は素直に言葉を重ねた。
「……それもちょっと気に入らんが、まぁ、妥協してやろう」
 少しもそう思っていないような口調でカガリは言い返してくる。
「カガリ」
「だって、そうだろうが!」
 一応、昔から女だったんだぞ、自分は……と頬をふくらませるカガリに、キラが小さな笑いを漏らす。
「でも、カガリ、十二になるまでは男らしくしていたいって、自分で言っていたじゃない」
 だから、アスランがそう思っていたのなら、それが成功しているってことでしょう? とキラはさらに口にする。
「……まぁ、な」
 さすがに、キラの言葉には頷かないわけにはいかないのか。カガリは渋々ながら認めている。
「女だからこそ、誰にも何も言われずにおばさまの負担を軽くして差し上げられる。でも、女だからこそ、厄介な問題もあるんだよ」
 お前にはわからないかもしれないが……と言うカガリに、アスランは少し考え込むような表情を作った。
「結婚問題か?」
 だが、すぐに答えを見つける。
「そうだ。まだ公表していないはずなのに、山ほど縁談話が持ち込まれているそうだ」
 もっとも、全部断ってもらっているがな……と彼女は笑う。
「しかし、それがいつまでも続くはずはないだろう?」
 カガリの《夫》がオーブでも重要な位置に就くかもしれないのだ。それを手に入れたいと思う人間が多数いてもおかしくはないだろう。
「わかっている。だから、お前に協力を求めたいんだ」
「俺に?」
 何を言っているのか、アスランにはすぐに理解できない。
 というよりも、アスラン自身、自分はその対象外だと思っていたのだ。
 それはもちろん、彼がプラントの世継ぎだという自覚があるからだろう。
「そうだ。キラに手伝ってもらって、過去の記録を確認した」
 歴代の女王の夫に関して……とカガリは口にする。
「中には、他国の王を夫とされた方も多くいる。もちろん、その夫に愛妾がいたことも、だ」
 ここまで言われれば、アスランにもその後に続く言葉が想像付く。
「俺に?」
「そうだ。もちろん、名目だけでもかまわない。せめて、私がもっと力を付けられるまでな」
 自分自身の力でそんなバカを排除できるようになるまで、名前を貸して欲しい。
 カガリは真摯な口調でこう言ってきた。
「もちろん、お前が他に誰か好きな相手がいると言うのであれば、諦めるが」
 それでも、いざというときには子供を作る協力だけはしてくれると嬉しい。そこまで彼女は決めているようだ。
「わかった」
 どのみち、自分だって同じ立場になるのは目に見えているのだ。それならば、と考えたとしてもおかしくはない。
「とは言っても、希望通りになるとは限らないぞ」
 自分たちの婚約となれば国そのものの思惑が絡んでくる。それはわかっているな、とアスランは言外に問いかけた。
「それでもかまわん。かなわなければかなわないで、口実には使えるだろう」
 今は、それでも十分だ……とカガリは口にする。
「なるほど」
 そういうことなら、それでいいか……とアスランも納得をした。
「……でも、キラはいいのか?」
 ふっと思い出したようにアスランはキラに問いかける。
「僕は神殿にあがるから」
 俗事とは切り離されるんだよ、とキラは笑い返してきた。
「まぁ、キラが本気で誰かを好きになって、神殿を降りる……と言う可能性はあるけどな」
 その時はどんなに困難な状況だろうと手助けをしてやる、とカガリは言い切る。同時に、キラの体をしっかりと抱きしめた。
「……本当に仲がいいな、お前達は」
 自分だってキラを抱きしめたいのに。そういいたくなる気持ちを、アスランは必死に押しとどめていた。

 カガリとキラの十二の誕生日。二人の祝いの席でアスランとカガリの婚約が発表された。


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