「どうして!」 キラはカガリにこう問いかける。 「どうして、僕に教えてくれなかったの!」 自分が原因のことだったのに、どうして……とそう思う。もし知っていたら、こんな戦は引き起こさせなかったかもしれないのに、と。 「お前がどのような結論を出そうと、オムニは戦を仕掛けてきたに決まっているからだ」 そんなキラに向かって、カガリはきっぱりと言い切る。 「奴らが欲しいのはオーブの王族の血。そして、この地に眠る鉱石だよ」 前者があれば、自分の存在を飾ることができるのではないか。そんなことはないというのに、そう考えているのだろう。だから、王家の血をひく女性であれば、キラでなくてもよかったに決まっている、とカガリは言い切る。 後者に関しては、それでまた戦争を行う費用をまかなう気なのだから、手渡せるはずがないだろう、とも付け加える。 「……でも、カガリ……」 「何よりも……あの男はお前をめとることで、女神を完全に否定するつもりなんだぞ」 さらに言葉を重ねようとしたキラの耳に、カガリが信じられない言葉を投げつけてきた。 「女神、を?」 そんな存在がこの世界にいるなんて……とキラは言外に付け加える。 「そうだ。だからこそ、余計にお前をあいつに渡すわけにはいかないだろうが!」 自分が何と呼ばれているのか、とカガリが問いかけていた。それにキラは小さく頷いてみせる。 女神の愛し子 そんな身に余る呼び名を付けられている自分に違和感を感じないわけではない。それでも、人々がそんな自分の存在に癒しを求めているのであればかまわないだろうか。そう思っていることも事実だ。 だが、そんな自分がオムニに嫁ぐことでどうして、とも思う。 「お前をただの子を産むためだけの存在におとしめること。そして、その子供が女神を否定するような言葉を口にすれば……結論としてお前が女神を否定すると言うことになる、という事だ」 女神の眠りを守り、その言葉を伝えるのが神官の役目。そして、その神官を守るのがオーブの役目。 その二つともを否定しようとしてるのだ、とも彼女は言い切る。 「それだけではないな」 さらにもう一つの声が耳に届く。 「アスラン?」 視線を向ければ、彼が厳しい表情で歩み寄ってくるのが見える。 「アスラン、無礼だぞ」 「悪い。一応ノックはしたんだが、聞こえなかったようだな」 それに、キラの説得をしていたようだし……とアスランは微かに苦笑を浮かべた。 「カガリだと、最悪、情に流されてとんでもないことを口走るんじゃないかと心配になってな」 「そんなことは」 「ないと言い切れるか?」 アスランの言葉にむっとしたカガリだが、それは図星を指されたからだけらしい。悔しそうに口をつぐむのがわかった。 「キラも、だぞ」 それに満足した――と言えば語弊があるだろうが――のか、アスランは視線をキラへと移すとこう言ってくる。 「……アスラン」 「お前の存在で心の平安を得られているのはオーブの人間だけではない。プラントの者達も同じだ」 それに、とアスランは続けた。 「キラは俺たちにとっても家族だからな。大切な家族を、政治の道具にしたい人間は、この世にいない」 少なくとも、オーブもプラントも、キラを犠牲にしなければならないような国ではないだろう、とアスランは微笑む。しかし、すぐにその表情を引き締めた。 「何よりも、プラントはオーブを守るために存在している国だ。そして、オムニはそんなプラントが目障りと考えている。だから……キラが嫁いでも、間違いなくプラントとオムニは戦になっただろうな」 その時、キラの命を盾に協力を求められたら、オーブはどうすると思うか。 この言葉に、キラはカガリを見つめる。 「私だけではなく、お父様やウズミ様も……きっと、お前を見捨てられない。それが、女王として認められないことだとしても、だ」 しかし、それは許されることではない。 ではどうすればいいのか。 そう考えれば答えは一つしかないだろう。 「何よりも、そんな前例を作れば、今後、神官達に無理難題を押しつける者達が増えるだろう。イザーク殿のご両親のように、お互いが心の底から愛し合っているのであればいい。そうではなく、ただ見目だけを問題にして手に入れようとするものが出てこないとは言い切れないだろう?」 だからこそ、キラが自分の片割れでなかったとしても、オーブは同じ結論を出したに決まっている。カガリはそう言って笑った。 「もっとも、お前だからこそ、私は本気で怒っているんだけどな」 さらに付け加えられた言葉に、キラはどう反応を返せばいいのかわからなくなってしまう。 「……カガリ……」 「大丈夫だ。オーブとプラントの騎士達は、オムニの者達にも負けない」 「何よりも、民衆が一番、今回のことで怒っているからな」 おそらく、オムニとしては民衆が戦をいやがるだろうと思って、国王がキラに求婚をしたこと、そしてそれをカガリが拒否したことで戦が始まったのだ、と噂を流したのだろう。 しかし、それは逆効果だった。 オーブの民はもちろん、プラントの者達もオムニに対する怒りを隠せないらしい。 彼等の方が率先して戦の準備に手を貸してくれているのだとか。 「だから……早々に終わらせる。だから、お前は我々の勝利を祈っていてくれ」 そして、全てが終わったなら、人々のために微笑みをみせて欲しい。カガリはそういってくる。 「カガリ……アスランも」 「心配するな」 その言葉にどう反応を返せばいいのか。 キラにはわからなかった。 |