父とカガリに顔を見せるためにオーブの宮殿へと足を踏み入れたときだ。キラは微妙に違和感を感じてしまう。 「キラ!」 元気だったか? と口にしながら駆け寄ってくるカガリの存在に、その感情も押しやられてしまった。 「元気だよ。アスラン達が一緒なのに、何の心配があるの?」 もう、好き勝手やらせて貰ったから……とキラは微笑みを返す。 「わかっていたけどな」 ぎゅっと、カガリがキラの体を抱きしめた。そのまま、小さな頃のようにキラの頬に自分のそれを押し当ててくる。 「でも、私が側にいてやれなかった。だから、心配だったんだ」 アスランがいるから安心だとは思っていても、とさらにカガリは言葉を重ねた。 「過保護だね、カガリ」 自分だって、もう守られてばかりいる子供ではない。自分の目で世界を見て、いろいろと知らなければいけない立場なのだ、とキラは苦笑とともに言い返す。 「しかたがないだろう! お前は私の半分なんだからな」 誰だって、自分の半分を失ったら生きていけないだろう? とカガリは聞いてくる。 「私は自分で自分を守れるが、お前は無理だ。相手を傷つけることもできないのだからな」 だから、自分とアスランが心配しているんだよ……と彼女は付け加えた。 「カガリ……」 「忘れるな。お前の存在はあるからこそ、私たちは《生きて》いられるんだからな」 だから『過保護』と言いたいならそれでもいい。大人しく守られていろ、といいきる。 「わかったよ」 わかったから、取りあえず放して? とキラは口にした。でないと、ゆっくり話しもできないとも付け加える。 「それに、お父様も待っていらっしゃるみたいだし」 お願いだから、挨拶をさせて? と付け加えれば、渋々ながらカガリはキラを解放してくれた。それでも、側から離れないあたり、彼女らしいと言うべきなのだろうか。それとも、それほど寂しかった、と言うことか。 こんなことを考えながら、キラはハルマへと視線を向ける。 「ただいまもどりました、お父様」 ふわりと微笑みながらキラはこう口にした。 「お帰り、キラ。どうやら、パトリック達にかわいがられてきたようだね」 元気そうで何よりだ、と口にしながら彼はキラの体を抱きしめてくれる。 「お父様も……少し、おやせになりました?」 何か、抱きついたときの感触が……とキラは思ってこう問いかけた。 「そうかな? まぁ、カガリが飛び出していかないように見張っていなければならなかったからね」 キラを送り出してから二三日はよかったのだが、それ以降はもう我慢ができなくなっていたようだからね、と彼は笑いながら付け加える。 「そうなの?」 その言葉に、キラは思わずカガリを見つめてしまう。 「そんなことは……」 「……身に覚えがあるんだ」 キラの言葉に、カガリは困ったと言うように視線を彷徨わせ始めた。と言うことは、彼女自身、身に覚えがあると言うことだろう。 「だったら、もし、僕が他の神殿に配属になったらどうするの?」 その可能性がないとは言い切れないでしょう? と付け加えれば、背後からカガリが抱きついてきた。 「そんなこと、私がさせると思うか? 第一、お父様達だって反対をするぞ」 キラがいなくなったら、自分を止められる人間がいなくなるからな……とカガリは偉そうな口調で言ってくる。 「それ、自慢するところ?」 「自慢じゃなくて、ただの事実だ」 きっぱりと言い切らなくてもいいのではないか。少なくとも、女王としてそれでいいのか、とキラは考えてしまう。しかし、カガリはあくまでも本気のようだ。 「カガリ……」 「と言うことで、国のためにもお前は私の側にいなければならない。マルキオ様もそれはご存じだからな。決して、他の神殿に配属されることはないぞ」 でも、とカガリは少し考え込むような表情を作った。 「アスランには時々貸してやらないとダメか。あいつも、こちらに気軽に来られるような立場ではなくなったようだしな」 レノア様のこともあるし……とカガリは付け加える。 「あぁ。そうだ。レノア様からカガリにって、預かってきたものがあるんだ」 パトリックからハルマに、と渡されたものもある……とキラは微笑む。 「他にも、いろいろ買ってきたし……あぁ、新しい友達もできたよ」 たくさん話したいことがあるんだ、といえばハルマも頷いてくれる。 「そうだね。それに、フラガ君達も解放してあげないとかわいそうだね」 奥方と一緒だったとはいえ、キラを護衛していたのであれば、二人桐野次官を取ることは難しかったのだろう、とハルマは年長者らしい言葉を口にした。 「そうだな。今日はこちらに泊まっていくんだろう?」 「そうだね。カガリがいいなら、いいよ」 多分、この調子では一晩語り合っても終わらないのではないか、とキラはそう思う。 「ダメなんて言うはずがないだろう? あぁ、夕食は父上の他にウズミ様もお招きした方がいいな。きっと、プラントの様子をお知りになりたいだろう」 その他は、取りあえず今日は遠慮して貰おう、とカガリは付け加える。 「カガリ?」 「せっかくの家族の時間だからな。そのくらいは妥協して貰ってもかまわないだろうしな」 それと、ねるときは同じ部屋だぞ……とカガリは楽しげに言葉を重ねた。 こうなると彼女の暴走は止まらない。その事実をキラはよく知っている。そして、ハルマも同様だ。 「すまないね、キラ。今日だけは付き合ってやりなさい」 多分、明日の朝になれば収まるから。そういう彼に、キラは静かに頷いてみせた。 |