「カガリ、だ」 金髪の、性格がきつそうな方が言葉とともに胸を張る。 「キラです」 こう言ってきたのは、すみれ色の瞳が印象的な方の子だった。 確かに、目の前の二人はよく似ている。しかし、性格の違いがしっかりと顔に出ていることも事実だ。 それでも、二人とも嫌な感じはない。 「アスランだ」 だから、アスランとしては穏やかな口調で名乗った。 「……お母様が持っていらっしゃるレノア様の肖像画にそっくり?」 「だな」 しかし、キラとカガリは別のことが気にかかったらしい。顔を見合わせるとこんなことを口にしている。 「お母様は、レノア様は素敵な女性だとおっしゃっていたが……こいつはどうかな」 気に入らない奴なら、遠慮なく排除してやる……と言うのは自分のセリフではないだろうか。これがプラントであれば無条件でそうしている、とアスランは心の中ではき出す。 「カガリ、聞こえるよ」 というよりも、もう聞こえている……とアスランは思わずため息をつく。 「かまわないさ。お父様はもちろん、おじさまだってそうおっしゃるはずだ」 それはどうしてなのか。 「……ところで、お前達は男なのか、女なのか?」 これ以上、二人に無視されるのは面白くない。そう思って、アスランは口を開く。 「内緒なの」 それにキラがこう言い返してきた。 「内緒?」 「そうだ。オーブでは王族は十二になるまで性別を明かさない決まりだ。だから、それを聞くのは礼儀知らずと言うことになる」 気を付けるんだな……とカガリが言ってくる。 「……それは、すまなかった」 どのような事情があるのかはわからないが、それが決まりだというのであれば、尊重するのが当然だろう。アスランはそう判断をして、素直に謝罪の言葉を口にした。 「変わった奴だな、お前」 感心しているのかなんなのかわからない口調でカガリはこう言う。 「何が言いたい?」 その口調が思い切り気に入らない。自分にそんな風に話しかけてくる人間なんていなかったのだ。 「……カガリ……それじゃ、この人にはわからないよ」 不意にキラが口を挟んでくる。 「キラ?」 「オムニの人たちが気に入らなかったからって、その人に八つ当たりをするなんて、カガリの方が最低だよ」 ふわふわとしている容姿とは裏腹に、キラは厳しい言葉を口にした。 どうやら、この双子の場合、突っ走るのがカガリで、それを止めるのがキラの役目らしい。 確かにそのような雰囲気だな、とアスランは納得をした。 同時に、オムニ、という言葉が気にかかる。 オムニとは最近力を伸ばしてきた新興国だ。プラントと同じように女神の力を信じる気持ちは薄い。そんなものが確かに古くから存在している国とはいえ、女神を信仰する以外さほど力を持っていない――これはあくまでもアスランの認識だ――この国に、いったい何の用事があるというのか。 「オムニが?」 そんなことを考えながらこう問いかける。 「そうだ。私たちのどちらかと自国の誰かを結婚させたいと言っていたが……無駄なことだ」 カガリはこう言って笑う。 「なぜだ?」 王族である以上、国のために婚姻を結ぶのは当然のことだろう。 自分の父やハルマのように、己で選んだ人間を迎えることができる方が珍しいのではないか。 「女神の許可が下りないからな、あいつらでは」 くすくすと笑いをもらながら、カガリは口にする。 「第一、あいつら、男しか連れてこなかったしな」 私が男だという可能性を忘れていたぞ、とカガリはさらに笑みを深めた。 「僕たちが男だったら、無条件で王族の女性を選ばないといけないのにね」 でなければ、神殿の巫女達からかな、とキラは首をかしげる。 「……女王を立てるために、か?」 「まぁ、そんなところだ」 アスランの問いかけに、カガリは頷いてみせた。 そうして、この国は続いてきたのか、とアスランは心の中で呟く。 「でも、国を継ぐのはカガリだよね」 キラがこう言ってくる。 「キラ、お前!」 この言葉に、カガリだけではなくアスランも思わずキラの顔を凝視してしまった。しかし、キラの方はあくまでも穏やかな表情を崩さない。 「僕は、神殿に行くの。それが女神のご意志だから」 だから、国はカガリに押しつけることになるんだけど、許してね……と付け加えるキラに、カガリは言葉を失う。 「でも、まだ先のことだから……アスランとも仲良くなりたいな、僕」 そんな二人の気持ちを知っているのか。キラはさらに笑みを深めるとこう口にする。 「あ、あぁ……」 「キラがそういうなら、そうしよう」 それに思わず頷いてしまう二人だった。 それが、アスランとキラとカガリの出会いだった。 |