キラが完全に眠りに落ちてしまった頃、ようやくカガリが姿を現した。 「……ご苦労様だったな」 本来であれば、自分もあの場にいなければいけなかっただろうに。そう思いながらも、アスランはこう声をかける。 「気にするな、私の義務だ」 自分の安心のために、お前を利用したようなものだしな……と彼女は笑った。 「それは俺も同じだから、気にするな」 ただ、とアスランは眉を寄せる。キラが気になることを言っていた……とも付け加えた。 「……何かあったのか?」 「今、話す」 ただ、キラの側ではあまり話したくはないと言えば、カガリも納得したらしい。 「そうだな。キラを起こすのはかわいそうだしな」 今日も、少し無理をさせてしまったようだし……と彼女は頷く。 「なら、こっちだ」 言葉とともにカガリはさっさと歩き出す。その様子からは、戴冠式の時のしとやかさは微塵も感じられない。もっとも、その方がカガリらしいか、とアスランは苦笑を浮かべる。そのまま、彼女の後を付いていく。 先ほどは真っ直ぐにキラのもとに駆けつけたから気が付かなかったが、こちらの部屋は瀟洒な調度で埋められている。どうやら、歴代の女王が休憩のために使っていた場所らしいとアスランは判断をする。 そこには、もう、ラスティ達も集まっていた。 カガリはためらうことなくソファーに腰を下ろす。 「……もう少し、女らしくできないのか?」 せっかくのドレスがもったいない、とわざとらしいため息をつきながら、アスランもまたその向かいに腰を下ろす。 そうすれば、即座にニコルが自分の前にお茶を差し出してくれた。カガリにはマリューがそうしている。 「……キラ様の側に付いていますわね」 そして、カガリの心労を少しでも軽くしようと言うかのように、彼女はこう口にした。 「頼む。あいつも、マリューなら安心できるだろうからな」 ほっとしたように微笑むと、カガリはこう言って頷いてみせる。 「お任せください。キラ様が神殿にあがられた頃からお世話させて頂いていますしね」 もしも、フラガと出会わなければ今でもキラの側にいただろう、と彼女は微笑んだ。それは、母親のそれによく似ている。つまり、マリューがキラに対して抱いている感情はそれに近いものなのだろう。 頷くカガリに軽く頭を下げると、マリューはキラが眠っている部屋へと移動をしていく。 「……で? どこまで話を聞いているんだ?」 それを確認してからカガリはこう問いかけてきた。 「オムニの使者が、王との婚姻を迫ってきたこと。それと、キラがオムニの使者に妙な影を見たこと、か?」 前者はともかく、後者に関してはカガリも知らなかったのだろう。というよりも、知っているのはこの部屋でキラに付いていたものだけだ。 「……詳しい話を聞かせろ。どうせ、キラから聞き出しているんだろう?」 彼女の背中が扉の向こうで消えたところでカガリが即座に切り出してくる。 「キラの感覚は、俺たちとは違ったものを感じ取れるからな。ついでに、あくまでも推測でしかないのだが……」 そんな彼女の率直さは、やはり好ましい。 そんなことを考えながら、アスランはゆっくりと口を開く。 この話し合いは、空が白むまで続けられた。 胸に重みを感じて、キラは思わず目を覚ましてしまう。 「……あれ?」 その瞬間、視界に飛び込んできた光景に、キラは一瞬、ここがどこだったか悩んでしまう。だが、すぐに本宮にある部屋だと思い出した。そして、どうして自分がここで眠っていたのかも思い出す。 しかし、あの時には一人で眠っていたはず。 自分の立場を考えれば、誰かとともに同衾するわけにはいかないのだし……と心の中で呟きながら視線を向ければ、何よりも親しみを覚えている金髪が確認できた。 「カガリ、だ」 彼女であれば、それこそ生まれたときから一緒なのだ。キラが隠したいと思っていることも彼女は既に知っている。だから、何も心配はいらない……とほっと安堵のため息をつく。 だが、それが彼女の眠りを妨げるとは思わなかった。ゆっくりと開いていく琥珀の瞳に、キラは慌ててしまう。 「あぁ……今日は顔色がいいな、キラ」 その上、微笑みとともにこう言われてはどうしていいのかわからなくなる。 「あぁ、朝だな。ともかく、着替えをしないと……」 今日も一日タヌキどもと付き合わなければいけないようだし、厄介だな……と彼女は苦笑を浮かべながら起きあがる。 「おはよう、キラ」 そのままぎゅっとカガリはキラに抱きついてきた。 「カガリ?」 「いいだろう。一日の活力だ」 そういう問題ではないだろう。そういいたくなるのは自分だけだろうか。しかし、カガリはあくまでも真顔だし、とそう思う。 「と言うことで、キラ補給終わり、と」 固まっているキラを尻目にカガリはこう言って体を離す。そのままさりげなく視線を彷徨わせると、入り口のところで止まった。 「のぞき見するとは、いくら幼なじみでも問題ありだぞ」 ついでに、キラは私のだからな……とカガリは言い切る。 その言葉に、キラは慌てて視線を向けた。そうすれば、アスランが背中を向けているのがわかる。 「起こしに来ただけだろう。ウズミ様がおいでだ」 女性陣がいないから、婚約者である自分におはちが回ってきただけだ、と彼は続けた。起きているのがわかったから、視線をそらしただろう、とも続ける。 「そうか。今、着替える」 少し、ウズミの相手をしていてくれ……と口にすると同時に、カガリはベッドを抜け出した。 「僕も……」 「キラはもう少し寝ていていいぞ。オムニとのことを話し合うだけだからな」 でなければ、ハルマの所に行ってくれ……と彼女は思い直したように口にしてくる。 「お父様?」 どうかしたのだろうか、とキラは思う。 「昨日のことで、一番怒りまくっているのがお父様なんだよ。お前の顔を見れば落ち着くと思うから」 三人の中の誰かを寄越すから……と口にしながらも、カガリは手早く室内着を羽織る。どうやら、その姿でウズミ達と話し合うつもりらしい。 「うん……わかったけど、無理をしないでね」 「わかっている」 大丈夫だ、と笑うとカガリは歩き出す。 扉が閉められたことを確認してから、キラもまたベッドを抜け出した。 |