「……失敗しちゃった……せっかくの、カガリのお祝いなのに」
 寝台の上に体を起こしながらキラは苦笑とともにこう告げる。しかし、その顔色は確かにあまりよくない。
「ともかく、寝てろ。でないと、いつまで経っても寝台からでることを許可されないぞ」
 カガリはもちろん、他の方々からもな……とアスランは苦笑を返す。
「みんな、過保護だよね」
 キラはこう言うが、それは当然の事だろうと思う。
「キラが倒れるからだろう。頑張るのはいいことだが、適当に力を抜くことも必要なことだ」
 それも貴族のたしなみの一つだぞ、と冗談めかして付け加える。
「そうなの?」
 本当なのかというように、キラはミゲルやイザーク達へと視線を移動させた。どうやら、アスランが自分をからかっているだけ、と思っているらしい。
「……否定できないな、それは」
 気に入らないが……と彼は続ける。
「もっとも、重要な会議中に居眠りをしているような輩は論外だが、謁見の場で微笑みながら眠っている器用な方はいるぞ」
 なぁ、とさらに彼はアスランへと話を振ってきた。
「あぁ……あれは見事だった」
 さらにミゲルが頷いてみせる。
「もっとも、俺たちもその場にいるからな。疲れているとわかっていれば、ちゃんと俺たちが補えるように動くし」
 話の内容を聞いて、後で伝えるとかな……と彼は苦笑とともに言葉を続けた。
「……って、アスランのこと?」
 話の内容から理解してきたのだろう。驚いたようにキラはアスランへと視線を向けてくる。
「見事なものだろう」
 もうこうなれば笑い飛ばすしかない。そう思いながら、アスランはこう言い返す。
「でも、カガリだってキラが知らないところでそうやっているぞ」
 カガリの方が、そう言う点においてはうまい……と付け加えれば、キラはますます目を丸くする。
「……知らなかった……」
 カガリと双子なのに……と呟く彼女の肩をアスランはそっと叩く。
「キラがカガリと双子だからだろう。カガリにしてみれば、キラにだけは恰好いいところを見せておきたい、という所じゃないのか?」
 そういうところはわかりやすいよ、とアスランは笑う。
「……貴方も同じだと思いますけどね……」
 ぼそっとイザークが口にする。
「だよな」
 ミゲルまでそれに同意をしているというのは何なのか。
「……お前ら」
 しかも、キラの前でそれを言うか? とまで考えてしまう。
「それも無理はないだろう……と思っているがな、俺は」
「イザーク?」
 意外なところから助け船が出たな。そう思いながら、アスランは視線を向ける。
「どのようなときでも、貴方はまじめに取り組んでおられるようだからな。そのような人の前でうかつなことはできない……と言うのが母の言葉です。アスラン達も同じなのでしょう」
 違うのか? と忌々しいことにイザークはアスランに問いかけてくる。
「……違わない……」
 こう言われたら言葉を返さないわけにはいかないだろう。というよりも、こういう以外に何と答えればいいと言うのか。俺はそう思う。
「と言うことだから、貴方はさっさと体調を直して、こいつらがまじめに仕事をさせてください」
 きっと、今頃カガリは上の空かもしれないぞ、とイザークは付け加える。
「そうですわ、キラ様。絶対、どこの誰にあったのかも覚えていませんよ」
 外面だけはいいから、初対面の人間に気付かれてはいないと思うのだけど……とジュリも断言をした。
「……いいの、それで……」
「いいんです。ウズミ様がいらっしゃいますもの」
 それはそれで問題ではないだろうか。
 アスランはそういいたくなるが、その原因がキラではしかたがないな、とも思う。むしろ、そうならない方が問題だろう、とも考えてしまう。
「……でも、本当にどうしたんだ?」
 確かに、人が多いかもしれないけれど、それで我慢できないキラじゃないはずだろう、とアスランは言外に付け加えた。
「アスラン……」
 それに、キラは微かな恐怖を顔に浮かべながら彼の名を呼んでくる。
「何だ? キラの言うことなら、何でも信じてやるぞ」
 どれだけ突飛なことでもな……と付け加えながらアスランはキラの手をそっと握りしめてやった。
「オムニの王様って……魔道士、じゃないよね?」
 小さな声で、キラはこう呟く。
「キラ?」
 魔導師ではなく、魔道士。その違いがわからないアスランではない。
 神官が神の力を借りて世界のために働くように、それ以外の力を借りている者達がいる。それを魔導師という。プラントにも、そのような存在はいた。いや、ひょっとしたら神官よりも多くいるかもしれない。
 しかし、魔道士とはそれとは違う。
 自分のためであれば、禁忌すらも平気で行うものだ。
「どうして、そう思うんだ?」
 背後でみなが息をのむのを感じながらも、アスランはさらに問いかける。
「あの人……何かに、縛られていたから……」
 魔導師であれば神殿に足を運ばれる方もいるから、何人かにお会いしたことがあるけど……あのようなことをしていいと聞いたことはないから。キラはそうはき出すと同時に、そっと体を震わせた。
「だから……」
「そうか」
 それ以上、キラに何も言わせない方がいい。アスランはそう判断をした。
「残念だが、それに関しては俺も何も知らない。だが、キラがそういうのならば、オムニは魔道士の力を借りているのだろう」
 いや、その方が確実にオムニの所行を説明できるだろう、とアスランも考える。
「そこから先は、俺たちの仕事だろう? キラは、女神のお気持ちを聞いてくれればいい」
 あの方がオムニの所行に嫌悪感を持っていらっしゃるのならば、それをたださなければいけない。だから、それを確認して欲しいのだ、とも。
「それに……俺たちの代わりに神殿の書物を調べて頂ければ、いろいろとありがたいのですが」
 さらにミゲルもこういう。
「わかりました」
 アスラン達が信じてくれたからか。それとも自分にもできる事があるとわかったからだろうか。キラはほっとしたような表情で頷いてみせる。
 そんなキラのアスランはそっと撫でてやった。


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