アスランがその二人に初めてあったのは、確か六歳になるかならないか、と言ったときだ。
 オーブとアスランの父が治めるプラントは、友好関係にあった。
 もっとも、それはオーブが女神の神殿を有しているからではない。己の力を至高と考えているパトリックにしてみれば、そのような不確定な存在はむしろ不必要だと言い出しかねないのだ。
 もっとも、彼にしても一般民衆の信仰心までは否定しない。
 それによって、彼等が心の安定を得ているのであればかまわないだろう。そう考えるのが父だ。
 では、なぜ、そんなパトリックがオーブとの友好関係を深めているのか。
 それはまちがいなく、現在の執政であるウズミの存在が関係しているはずだ。
 彼は、自分から見ても確かに尊敬に値する存在だと言っていい。しかし、アスランにしてみれば彼の弟であるハルマの方が好ましいと思える。それはきっと、自分のような子供でもきちんと一人の人間として扱ってくれるからだろう。
「だが、それだけでは一国を治めるものとしては不十分なのだ。もっとも、ハルマが好ましい人間だと言うことに関しては私も否定はしないが」
 パトリックにそのことを告げれば、彼はこんな言葉を返してくれた。
「でなければ、レノアを嫁にはできなかっただろうからな」
 母であるレノアが父と結婚できたのは彼等のおかげだったのか、とアスランは今初めて知った。
「ウズミと個人的な交友をもてたのも、元はと言えばハルマのおかげだからな」
 彼がこちらに留学をしていたときにパトリックと知り合ったのだ。それが全ての始まりだったらしい。
「……だから、母上がごねられたわけですね」
 今回同行できなかったことに、とアスランは納得をする。
「久々にカリダ殿に会いたかったらしいからな」
 傍流とはいえ、他国の王家に嫁いだ人間がそう簡単に会いにいけるはずがない。もちろん、それはカリダの方も同じだ。
 だから今回、招待を受けて無条件で喜んでいたのだが、出発の前日、倒れてしまったのだ。
 原因もわからないそれに、パトリックは安静を命じた。本来であれば、自分も側に付いていたかったのだろうが、公式行事である以上、それはできないと判断したのだろう。
「それでも、ウズミ様が私たちが帰るときに、カリダ様も同行させてくれるとおっしゃっておられたそうではありませんか」
「そうだな。でなければ、レノアのことだ。強引にでも付いてきただろうな」
 苦笑とともにパトリックは頷いて見せる。
「もっとも、ハルマとカリダ殿の間にもお前と同じ年齢の子がいるそうだからな。あまり無理はさせられまい」
 それとも、一緒に来てもらうか……とパトリックは考え込む。
「あの二人の子ではあるが、カリダ殿のお子である以上、どちらかが国を継ぐことになるのだろうな」
 オーブは元々女系だ。
 しかし、現在の女王であるヴィアには子供がいないらしい。そうなれば、彼女の妹であるカリダの子供のどちらかが――たとえ男だとしても――国を継ぐことになるだろう。そうなると、うかつに連れ出すわけにもいかない。
 だが、彼等が自分にその二人を預けてくれるのであれば、これ以上の信頼の証はないかもしれないな……とパトリックは続けた。
「……仲良くなれるのでしょうか」
 ふっとアスランはこんな呟きを漏らす。
 国でも自分と同じ年回りの子供達が《ご学友》として付けられている。しかし、それが本当の《友人》となるのかどうかはわからない。彼等は、自分が選んだ存在ではないのだから。
 だが、これから会う者達は違う。
 いや、違っていて欲しい……とアスランは心の中で呟く。
「それこそ、お前次第だろうな」
 彼のその言葉に、パトリックは意味ありげに微笑む。
「父上?」
 それはどういうことなのか。
「友情というのは、どちらか片方だけの意志では成立しない。そういうことだ」
 だから、自分が努力をしなければ相手も答えてくれないはずだ、と彼は口にする。
「努力、ですか?」
「そうだ」
 いったいどのような努力をすればいいと言うのだろうか。それがアスランにはわからない。
 しかし、パトリックがそういうのであればそうなのだろう。
 アスランはそう納得することにした。

 そして、彼は双子と出会ったのだ。


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